第42話 母の懸念、それは予言?
メルティアは母親エステルについてはあまり聞いてはいなかった。
エステルはアンブロシアの公爵令嬢であり、当時の教皇候補アンゼルの婚約者候補の一人であった。
もちろん当初のアンブロシアは魔法能力の遺伝子が優れていることが、上位貴族、皇族の条件であったため、エステルも当然のように最強レベルの魔法の才能を有していた。
性格も明るく聡明で申し分のない令嬢であったが、一つ問題があったのは、魔法能力の向上心においても貪欲かつ最高志向であったのだ。
他人にはその最高を要求しなかったが、自らは自分に厳しく常に自らの最強を追い求めていた経緯があった。
その延長線上として、人を超えた存在である、神や天使の力に尋常でない興味を持っていたのだ。
そしてある日、その興味を実際に実行に及んでしまったのだ。天から熾天使を2柱も召喚に成功したのだ。その2柱の力は強大であったが、なんとその力すらエステルはエンジェルタイトという、天使と親和性のある神聖石に封印することに成功してしまったのである。
そして、この石はエステルの死後行方不明となり誰もその行方を知るものはいなかったのだ。それを今回、メルティアの魔導アイテム用として、シェスターが見つけてしまったのだ。
さらに何の因果か?熾天使2柱は、エステルの娘であるメルティアに憑依する形で、現代に顕現してしまったのだった。
現状では、この状態がメルティアにとって好ましい事なのか?さらに力を得るための手段になるのか?そもそも、この力は必要なものなのか?誰も想像がつかなかったのである。
「セリス、大丈夫か?」
「ええ、私は大丈夫です。さっきのあの霊体?エネルギー体?は何ですか?何とか押し返しましたが、、、」
「ごめん、僕が変な石を今回使わなければこんな事にはならなかったのに・・・」
「ありがとう、シェスは私のためにやった事だから、それでいいのよ。心配しないで。」
「これって、母様の召喚に応じて降りてきた天使なんですよね?それに、その天使様を呼び出したのが娘である私と言う事ならば、何かの運命なのかもしれないですね。お父様・・・」
「うむ、あいつ・・・エステルは力を欲していた・・・なぜ、何を求めているかはよくわからなかったのだが、まるで焦っているように彼らの力を欲していたのは事実なのだ。」
「母様はその力が必要だと考えていたということですか?」
「おそらくは、、、ただ、自分の向上欲だけで召喚するには大きな存在すぎるのでな。そう考えたいところだ。」
「お母様とお話ししたい、、、私は生まれて一度もお話も、お顔も拝見しておりません。」
「ふふっ、心配するな。エステルはお前を授かった時、どれほど愛し喜んだか、そしてその生まれてくる娘の能力に微塵も不安を持っていなかったのだから。ただ、、、求めすぎたのだ。突然変異を誘発した時点で、エステルの力を超える魔力を持つそなたが、エステルの身体に宿ったのだ。内包したまま共存することができなかったのだよ。そして、エステルは自分の命よりもメルティアお前の生命を優先したのだ。」
「はい、心からお会いしたいです。」
「そうだな、私も会いたいよ。あれほどの聖女だったエステルだ、いつか再生し話ができる事もあるかもしれない。私も淡い期待をもっているのだ。」アンゼルは遠い瞳をして、メルティアに昔話をするのである。
メルティアは、愛読書を片っ端から読み漁っていた。半分以上は魔導書であり、2割は神書であった。魔導書、神書にはかなり特殊な物が多く、如何にエステルが勉強家であったかが垣間見える。
目を通しているうちに、神書の予言に気になる部分があった。更にそのページには、繰り返し読み返していた形跡があった。
〈〈その者、異能者にして天の力を従え、天の傲慢、残酷、動乱を鎮めん、、、〉〉
・・・天の力こは、このたびの2柱の熾天使であり、異能者は自分自身・・・ならばこれから起こることは、天界が私達を不当に裁くために、何らかの強力な使者を送り出して来ると言う事なのか?
〈〈異能の者、時を操る少女の力を借りて、不老の祝福を得、自らの生命を燃やし、天の力を従えるに至る。〉〉
異能者は私、時を操る少女は、クロエ?ファンタム?またも、役者は、揃っている。
〈〈天の力、本来の理にあたわず、暗黒に沈黙す。その美しき都にして神を祀りし、神の子の源は灰燼に帰す。〉〉
何かを間違った神?天使達?が、約束に反して聖都アンブロシアを滅ぼす。
〈〈結末を知る、賢き神の使徒により導かれん事を祈るばかり〉〉
賢き使徒とはだれか?役者が足りない。新たに現れる人物なのか?
考えても繋がらない部分も多い。でも恐らくはこれが、メルティアの母エステルが、力を急いで欲した理由なのかもしれない。
そして、メルティア自身もそこに今行き着いてしまった。
この予言には、根拠があるのか?信じるに値する物なのか?
少なくても、母の信じたこの未来を追ってみる決心はついたのだった。
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