第41話 エンジェルタイト

 メルティアは、自分のベッドにシェスターを寝かせると、じっとシェスターの顔を見つめる。ふと気付くと、シェスターの深層に魔力の欠乏を感じ取れた。


 「また、無理してたなぁ、こんな魔力容積の巨大な石を自分の魔力のみで飽和させようなんて、しかも二個も・・・・・・こんな事で消耗される位なら、私に意地悪しないで優しくしてくれた方が嬉しいのになぁ。」


 メルティアは、シェスターの額に手を当てて、優しく撫でる。


 「仕方ないなぁ・・・」


 呟くと、メルティアはシェスターに口づけをする。ただの口づけでは無く魔力を注入しているのだ。シェスターの深層は、メルティアの淡いピンク色の魔素で満たされて行く。顔色も良くなって、状態は、落ち着いて来た。


 シェスターは、ゆっくりと目を開けて、話し出す。


 「ありがとう、また迷惑かけたね。」


 「ありがとう、でも心配だからあんな無茶しないで・・・」シェスターのブルーグレーの瞳をまじまじと覗き込む。


 「こうやって、じっくりとシェスターの顔を見るのも久しぶりね。相変わらずいい男だけど、意地悪だからなぁ・・・」シェスターの横に頬杖をついて、微笑む。


 「貴方の部屋は散らかってるから、今日はここで寝てね。私は、貴方の顔を飽きるまで見てから寝るわ。」


 「一緒に寝てくれないの?」


 「シェスって意地悪だから、シェスが眠ってからいくよ。」へらっと悪戯っぽく微笑みを浮かべるとシェスターの頬を抓る。


 シェスターも疲れたのか30分もしないで眠りに落ちていった。


 おもむろにメルティアも同じベッドの中に潜り込むと、シェスターの背中から抱き着く形で眠りに就いた。





 夜中になるとシェスターは疲れすぎているのか起きてしまった。シェスターは眠っているメルティアに向き直ると、作ったエンジェルタイトのピアス着けてしまった。


 メルティアに装着されたピアスが突然に真っ白な光を放ち、ただならぬ神聖なエネルギーを放ちだす。眠っていたはずのメルティアは目を大きく見開くと、そこにはいつもの青い瞳ではなく明るく輝く緑色の瞳が存在していた。


 「我は熾天使ティアルキア。貴様か?我を眠りを覚ましたのは・・・」


 「だ、誰だお前は・・・メルじゃないな?」


 「メル?この娘の事か・・・素晴らしい・・・これだけの器と能力を持った依り代は初めて見る・・・」


 もう一つのピアスが優しい薄紫色に輝きだすと、先ほどとは違う艶やかな女性の声が響く


 「美の熾天使である我が依り代にしても恥ずかしくない美しさだ・・・受け入れよう。」熾天使レイセフィアが、満足そうに微笑む。


 「それにしても、よくも我らを閉じ込めた超魔石に魔力を注ぎこめたものだ。お前がやったのか?」


 「どういうことだ?僕はお前たちを覚醒させるために魔力を込めたわけじゃない。」


 「ひどい言われようじゃな。まぁ良いわ、結果的に我々は眠りから覚める事が出来た。」


 「・・・こ、こやつ我々から身体を取り返すつもりか・・・溢れるほどの魔力が我々の意思を押し返している・・・」


 メルティアは苦しそうではあるが、沸き上がる薄桃色のオーラとともに、2天使の神聖力を押し返していく。


 「ば、ばかな、自力で我々をピアスに押し戻すつもりか!させぬぞ!!」


 「キャアアアアアァァァァッ」


 メルティアの悲痛な悲鳴が上がり、メルティアの全身が何か大きな爪のようなもので引き裂かれ、血飛沫が舞い散る。


 「戻れ!!この体は私自身の者だ、自由にはさせない!!」メルティアは叫ぶと、ベッドにうずくまる。


 その叫びと一緒に2天使はまたピアスに戻ったようだ。すぐにピアスを外そうとするが外せない・・・。


 メルティアは泣きながら引き裂かれてボロボロになった身体を引きずって、玉座の間へ行こうとするが、力尽きて倒れ込んで意識を失った。


 ほどなく、ただならぬ魔力に気づき、教皇アンゼルがメルティアの部屋に現れる。


 「何があった!!」シェスターを問いただす。


 寝ている間に起った事、エンジェルタイトで作ったピアスから天使が現れメルティアに憑依した事を説明した。


 アンゼルは仕方なさそうに、話始める。


 「この2柱の熾天使は、過去にメルティアの母親エステルが魔力強化の最終手段として用いるために捕獲し、エンジェルタイトに封印した天使だ。」


 実際には、メルティアの母は、優しく美しい女性ではあったが、それ以上に、天使を捕獲できるほどの力を持った異能者であったのだ。


 自らの魔力を昇華させるために、天使を魔力触媒とする目的で準備していたのだ。もちろん自分自らは、メルティアを出産する際に不幸にして亡くなってしまったのだが、今回時を経て、同様に娘であるメルティアを強化できる触媒環境を作ってしまったともいえるのだ。


 苦渋の表情でアンゼルは呟く。


 「もうこれ以上メルティアは強くなる必要はないのに・・・因果応報という事か・・・」世界統一のために、力を求め続けたアンブロシア教皇の苦悩が滲むのであった。


 いずれにしても、次に2柱の熾天使が目覚める前に対策を立てておく必要があるのは事実であった。

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