第11話 覚醒
メルティアは、非常に能力が高い為に限界が高い分、実験にかかる時間も長くかかる。
その分苦しむ時間も長くなり、魔力より先に生命の限界が来る可能性が懸念され始めた。
現在続けられている魔力負荷は、能力的に耐えられても、体力的に限界が来ていた事から、中断になってしまったのだ。
その夜は、一時的に拘束を解かれたが、実験体専用の仮眠室に移動すらできない状態だった。
翌日、何とか意識はあるものの身体の自由は利かなかった。それでも実験は続けられて行く。
時間がかかると体力がもたない事から、本日の魔力負荷は、短時間に急速な負荷をかける方向で開始された。
「きゃぁぁうぅぅあああっ」
悲鳴があがる。血の涙が零れ落ち、身体は苦痛に反り返る。
身体中の汗腺からも血液が滲み始めたその時、急に外が騒がしくなって来た。
「何かあったのか?」
「侵入者がこちらに向かって来ている様です。」
話す間も無く操作室のドアが破壊され、カルセドが飛び込んで来る。
「死にたくなければ、指示に従え!」
操作室のモニターには、血だらけでもがいているメルティアが映し出されている。
「なんて酷い事をするんだ!直ぐに姫様を解放しろ!」
シェスターが研究員を怒鳴りつける。
その時、《パキキッ》メルティアにはめられた複数の魔封アイテムが、メルティアの魔力を封じきれなくなり壊れた。
その瞬間、解放された魔力が弾け、全てが光に包まれる。
「・・・ダメです。実験体が魔力暴走を起こしてしまいました。もう、止まりません。」
「バカヤロウ!何でも良いから実験室のドアをあけろ‼︎」
「研究員は、役に立たない。」
シェスターは、実験室のドアの前に行き魔法を放つ。
『フレアブラスト‼︎』
ドアを破壊して、突入した。
メルティアは、真っ白な光に包まれて魔法陣の中心に座り込んでいる。
シェスターを見るとものすごい勢いで魔力砲を撃ち込んできた。
彼を認識できていないのだ。
「うあぁっ」
シェスターは、防御もできず弾きとばされ壁に叩きつけられうずくまる。
かなりのダメージを負ってしまうが自ら治癒魔法をかけると立ち上がって、再びメルティアに駆け寄ろうとするが、またも魔力砲がシェスターに放たれる。
《ドドオォン》
アルフィンが強力な魔力障壁を張り、なんとかシェスターを守る。
「姫‼︎」メルティアを抱きしめる。
《ジジュッ》
シェスターの魔法着が焼ける音がする。
抱きしめた腕や身体が焼けて行くが、離さない。
「姫様・・・迎えに来ました。もう大丈夫だから落ち着いて・・・」メルティアの耳元で囁き続ける。
「申し訳有りません。また、守ってあげられなかった。でも、もう大丈夫、側に居ますよ。」
まだ、メルティアは、シェスターの腕の中で暴れている。
「失礼します。」
シェスターは、メルティアの唇をキスで塞いだ。
暫くするとさすがに抵抗もおさまり、唇を離す頃には、大人しくなるとシェスターの胸に縋りついて泣いていた。
ひとしきり泣いて落ち着いたメルティアを抱き上げると、4人は、研究室を後にした。
残った研究室では、魔力暴走を起こした時のデータが残っており、解析の結果メルティアの潜在能力の詳細が示されていた。
「教皇様、メルティア様の能力の詳細が分かりました。とんでもない結果です。元々最強であったステータスは覚醒後には5倍程に跳ね上がり、総魔力量も測定不能で最低でも15の貯留槽を満たす以上にありそうです。一人でこの国を殲滅可能なレベルです。」
「申し訳ありません。逃してしまいましたが、いかが致しましょう。」
「セリスの件では、我が軍も多大な犠牲を払ってきたが、今は深追いは禁物だ。彼らを、しっかりと見張っておけ。目を離すなよ。」
追撃を断念したのは、何処かに娘への温情を残していたからかも知れない。
逃げた4人は、城下町のはずれに宿をとっていたが、血まみれになった全裸の女性を毛布にくるんで侵入するのには苦労した。
寝ずの番をするという事で、シェスターの部屋のベッドに寝かせた。
「あっあぁ」言葉にならず、ただシェスターに向かって手を延ばす。
「ん?どうしたの姫?」
優しく柔らかく微笑むシェスターは、身体中火傷だらけだ。
延ばした手は、火傷をした胸に、柔らかく触れる。薄桃色の光が弾け、瞬間にして傷が消滅した。
「シェ・スぅ、あ・りが・と」
未だまともに喋れないメルティアが必死に話しかけているのだ。
ぼろぼろと泣きながら、シェスターの服の胸の部分を捕まえて離さない。さすがに今回は怖かったのだ。
「はっ、離れちゃ、、だめぅ」
シェスターは、初恋の姫のしどけない姿を目の前にして、動揺が抑えられないでいた。
「傍にいて・・・」
メルティアは、シェスターをベッドに引き込むと、胸にしがみつくと、眠ってしまった。
シェスターは、メルティアの頭越しに、独り言を呟く。
「姫に本当の気持ちを聞いて欲しいんだけどいいのかな。ずっと大好きで、ずっと諦めてて、それでも姫しか好きになれなくて、大切なのに護れなくて、苦しくて、それでもまた、姫の前では笑わなきゃで、、、俺どうすればいい?」
すっと、メルティアが顔を上げてシェスターのブルーグレーの瞳をじっと見つめると、なにも言わずに、またシェスターの胸に顔を埋めて眠ってしまった。
き、聞いていたのか?驚いたシェスターは、言い訳を呟く。
「うそうそ、明日からはまた姫をずっと護て行くだけの忠実な一人の騎士さ。」
《どん!》
「ぐはっ!」
メルティアが思い切り胸を叩いた。
怒っている。
「あぁこの時間がずっと続けば良いのに。」メルティアを抱きしめた。
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