第10話 教皇

 その日から、メルティアは戻る事はなかった。四方捜索が行われるが、目撃証言もなく、アンブロシアの関与は疑われるものの、他の勢力の介入もしきれない。


 誘拐した当事者からの接触を待つ以外に、方法が無いのが実情であった。


 そんな中、側近の3人だけは動き出す事を決めたのだ。


 シェスター・アルフィン・カルセドの3人は、アンブロシアに向かった。





 メルティアは、アンブロシア聖教国はアルセンシア城の最上階に軟禁されていた。


 ここは、過去にメルティアが皇女として生活していた場所である。


 「セリス。気は、変わらないのか?私に従うなら、ある程度の自由と其方の必要とする人材の安全は保証しよう。」


 「お父様!もう既に大切な者達に遺恨を残してしまいました。後戻りは出来ません。」


 「なぜ、そんな事をお前が気にする必要があるのだ。確かに其方は、私にとって優秀な血統を維持する為の道具で有る事も事実だが、本当はお前と家族で有る事を望んでいる事に偽りは無いつもりだ。」


 「私の今ある姿は、多くの優秀な、魔法適性、多様性、体質、特殊スキルから容姿に至るまで選りすぐり、最強な遺伝特性を維持したまま、突然変異まで誘発させて強化した上で生まれて来ました。私が生まれる為にどれだけの存在や心を握り礫して来たか・・・もう、こんな事やめませんか?」


 この国では、以前から優秀な遺伝子を持つ者たちが、遺伝子の強化の為だけに、愛の無い交配を繰り返したり、優秀な遺伝子を集める為に生命を奪うことは、当たり前に行われていた。


 そんな忌わしい卵子や精子を確保・凍結保存し、人工受精を行う。


 そんな悪魔の様な所業が、王侯貴族から平民を問わず行われて来たのだ。


 実際メルティアは教皇とある公爵令嬢との間に生まれた。


 母は、現状で最も優秀な遺伝子を持つとされた美しい女性であった。


 教皇も彼女を愛していたが、妊娠の極初期に突然変異を誘発するための魔道操作が行われ、結果としてメルティアは、母の生命と引き換えに生まれてくる事になったのだ。


 「私も其方も、そんなアンブロシアの歴史の体現者なのだ、逃げられないのだよ。だからこそ、其方の傍には、遺伝子の優れた者だけを集めたのだ。其方が誰を選んでも許してやれる様に・・・結果として、こちらには甚大な被害が出てしまったがな。」


 「せめて、この力で世界を支配するなんて、酷い事はやめてください。今度こそ、私達が呪われた存在になってしまいます。」


 「やはり、其方は私の力にはなってくれないのだな・・・お前の事は、娘としてずっと一緒に居てほしかったのだが・・・」


 「なら、なぜ私の言う事を聴いてくれないの?」


 「私すら、アンブロシアの歴史の継承者でしかないということだ。今其方の言う事を聴く事は、この国自体を否定する事だ。」


 「私だって本当は、お父様が大好きです。これから変わって行ったらダメなんですか?」

メルティアは、泣きながら懇願する。


 「たった今から、其方は実験材料だ。私は、もう其方に会う事はない。」


 教皇は、一度だけ振り返る。


 その頬には、光るなにかがつたっていた。


 「お父様ぁ‼︎」


 メルティアはたくさんの想いを込めて叫ぶ。


 そして地下の実験室に連れていかれた。






 メルティアが連れて来られたのは、巨大な魔法陣が幾重にも配置された空間である。


 服は脱がされ一糸纏わぬ姿で、魔法陣の中央に固定される。


 「何これ!お願いはなして!」


 「申し訳ありません。もはや姫様としては扱えませんので、お許しください。」


 「お願い、お父様と話しをさせて。」


 「貴方は、もう実験体でしか無いのです。」

冷たい声で答えが返ってくる。


 「では、実質魔力量の測定から、始めて下さい。」


 魔法陣が光だし、メルティアの魔力は、物凄い勢いで吸い出されていく。


 「あぁっ!うっくっくうぅ・・・あっ」

身体中震わせて、悶え苦しむ。


 「す、凄い魔力量だ!空に出来るのか?他の実験室の魔力貯留槽も連結しろ!」


 そして、貯留槽を5つ満たして漸くメルティアの魔力は、空になった。


 「あっあぁ・・・うぅん・・・あっ」


 全身痙攣させて涙ながらに、自分が映し出されたモニターを見つめる。


 「では、次は自然回復を確認します。」


 このままの状態で放置され、5日ほどで全回復する結果となった。


 「脅威的な回復力だ、大きな町の生活に必要なエネルギーを余裕でまかなえる程の魔力量だ・・・」


 「では、次は注意して下さい。間違うと生命に関わります。魔力負荷開始します。」


 魔法陣が凄い勢いで発光して行く。


 「あっあああああっ・・・いや!やめて!助けて・・・」


 激しく苦しみ出す。それは、延々と続いていく。2日後に限界を迎える。


 メルティアの身体は、それ自体が発光してまるでエネルギーそのものになったかの様な状態である。


 3日後、口からは吐血、血の涙を流して、ただただ耐えていた。


 「あっあぁ・・・お願いもう無理です。やめてぇ・・・」息も絶え絶えで訴える。


 「汗腺からも、出血し始めたら中止して下さい。」


 地獄は、続いていくのだった。

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