ショートストーリー

海花

第1話 雨音

雨音

帰り支度をしている俺に「少し待ってて…」と言って樹が教室を出て20分近くが過ぎた。

俺は自分の席で窓の外に降る雨を見ている。


……来週文化祭なのに……雨降ったらヤダな……。


ここのところずっと降り続く雨が俺の気持ちを憂鬱にする。

実の所、憂鬱になる原因は他にもあるのだが……。

「お待たせ」

いつの間にか戻ってきた樹に声を掛けられ俺は窓から目を離した。

「また呼び出されたの?」

カバンを用意しながら一瞬俺に視線を向けただけで樹が返事を省略する。


「なんて言ったの?」

廊下を歩きながら何となく聞いた。

本当は知ってる。何故なら毎回同じ答えだから。

「好きな奴いるからって」

樹が素っ気なく答える。

後夜祭の花火をカップルで見る為に、最近みんな躍起になっている。それで樹も連日の様に女の子に呼び出されているのだ。

まぁ…俺みたいに平凡か、それ以下のやつには関係の無い話だが……。

それに呼び出されたところで……俺にだって好きな人くらいはいるし……。

外に出ると傘を差す前に鬱陶しい空を見上げた。


……花火…………やれるかな……。


「大丈夫だよ」

空を睨みつける俺に気付いたのか、樹も空を見上げ口にした。

「後夜祭の日は晴れるって……天気予報が言ってた」

俺の心の中を見透かす様な樹の言葉に戸惑いながら「そうなんだ…」とだけ返し樹の顔を盗み見る。


……樹は…誰と花火を見るんだろう…。


傘を差しながらバス停までの道のりを何故か今日は黙ったまま歩いた。

話をしたところで雨音に消されるからかもしれないし、大した話題が無かったからかもしれない。

もしくは他の要因か……。

バス停に着く寸前、急に雨が止み、遠くには青空まで見えている。


「俺はさ…お前と花火見るつもりなんだけど……」


傘をたたみ樹が空を見上げながら言って、俺は樹を見つめた。


「まぁ……それも…いいかもね」


俺は思わず笑顔になりそうになるのを我慢して雨上がりの空を見上げた。



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