元聖女、現在侍女は第二王子との結婚フラグを折りながら世界を救っちゃいます

宮野 楓

~1 元最強聖女は神託を受けちゃいました~



 —————もうすぐ戦乱の世が訪れる。



 ルーベンス侯爵家で侍女をしているアリスは洗濯物を干している時に、物騒な内容が頭の中から聞こえてきて、手を止めて空を見上げる。

 アリスは昔、聖国という国で聖女をしていて不思議な力が使える。それは魔法とも何とも言い難いのだが、その内の一つとしてこうして時々誰にも聞こえない声がアリスにだけ聞こえることがあった。聖国ではそれを神託だとか言っていたが、アリスは胡散臭いと思っている。だが内容が内容で、この胡散臭い声の言葉は予言みたいな時は、残念ながら当たってしまうのだ。

 信じる、信じない、は聞く側の判断だと思い、アリスは自分の主人であるルーベンス侯爵夫人ミリエルに指示を仰ぐ為、洗濯物も途中にして書斎へと向かった。


「あら、アリス」

「エルさま、ちょぉっとだけなんですが、気になることがありまして……」


 内容をそのままミリエルに伝えると、ルーベンス侯爵ロイスの指示を仰ごうという話になった。まぁ妥当だなと思い、分かりましたぁと返事をして、ロイスが返ってくる夕刻まで侍女の仕事を再開した。

 ロイスは聖国でアリスがどんな立ち位置にいたか知っているので、帰ってきて内容を聞いて、すぐさま一緒に城に連れて行かれることになってしまった。まぁここも妥当だなと思いつつ、面倒事になりそうな気がして、首を横に振った。

 アリスはミリエルの侍女として、ずっとミリエルの傍で侍女をしていたい。聖女の仕事なんてクソなので、絶対に戻りたくはないし、正直、今回の内容はミリエルを害しそうだからこそ伝えたのだ。最悪、アリスは結界を張る力も持っているので、ミリエルと嫌だがミリエルが大事にしているロイスにだけ結界を張って、戦乱から逃がすことは出来る。


「あぁああ、こんなところもう無縁でいたかったですわぁ~」


 白亜の城につき、アリスは盛大にため息をついた。

 美しいお城なのだが、醜い争いを行うのが王族であり、そこに纏わりつく貴族なのだ。暗殺も偽造も日常茶飯事って感じなのは綺麗なお城では拭えない。


「堂々と口に出すな」

「でもね、ロイス様。まぁ関わり合いたくないんですの。もう、懲り懲りってか、今回の内容言うだけで良いんですよね!」

「あぁ。お前についてはルーベンス侯爵家で預かる、で話は付いてから、まぁ心配ないはずだ。どうせこちらがその条件を破棄したら、自力で逃げるだろ?」

「エルさまは置いていきませんけど、自力でどうにも出来ないように結界を張るだけですけどねぇ。正直疲れるけど、ルーベンス侯爵家の敷地くらいなら、嘗て聖国全体を覆っていた時に比べたら、まぁ余裕かな」

「……その際、俺は入れるようにしといてくれ」

「エルさまが大事にしてるんで、まぁロイス様は出入り自由ですよ」


 城内を歩いて、豪華絢爛な扉の前に着く。警護の人はロイスを見て、騎士団長と言えば、ロイスは話は通してあると答えると簡単に扉は開かれてしまった。

 先にいるのはこの国、ゼブラン王国の国王陛下と第一王子ウィルフレッドと第二王子イージスであった。

 ロイスはある程度歩み寄ると膝を付く。アリスはどうしようかと思ったが、礼儀作法等知らないので、取り合えず立ったまま、礼だけをした。


「よい、面を上げよ」

「はっ。国王陛下」

「聖国の聖女より神託があったとな。聖女アリスよ、説明を」


 アリスも顔を上げて、取り合えず説明することにした。


「まずもう聖女ではありませんので、ご了承下さい。一介の侍女ですが、『戦乱の世が訪れる』とそれだけです。神託というべきかも悩みますが、時折勝手に聞こえてきます。これは聖国に嘗ていたときは高い確率で当たりました。私はもう、聖女ではありませんので、この話を信じる、信じないは陛下の御心のままに」

「ほぉ。それは聞こうと思えば聞こえるのか」

「いえ、勝手にしか聞こえてきません」

「嘗て聖国を掌握していた元聖女の言葉。聖女なんて肩書が取れても、持っている力が消えるわけではあるまい。ウィルフレッド、イージス、それぞれ意見を述べよ」


 国王陛下の言葉にまず第一王子のウィルフレッドが発言失礼します、と述べてから言葉を紡いだ。


「現在は特に周辺諸国に動きはありませんが、わが国が聖国を領土とし、それを不満に思っている国もあるかと思いますので、警戒することに意味はあるかと」


 そのウィルフレッドの言葉に第二王子イージスはふっと笑う。やや嫌みったらしい。


「警戒……? 足りないな。いくつか内密に動いている国はある。これじゃ安心してゼブランを任せられないぜ? そこのせい、おっと侍女は嘗て俺の部隊の進行を簡単に止めてくれやがった。そいつは今、ロイスの嫁を気に入っている。無視するには価しない。動くべきだと思うね」

「ほぉ。イージス、どう動く?」

「一番怪しいのは隣国、フルール。だが他にも怪しい動きはある。だから、元聖国とゼブランで軍事演習を。いつでも出撃できると匂わせる。そうすれば戦力を知りたくて動いてくれる馬鹿もいるかもしれない。まず釣りをしてみたいって思うよ、親父殿」

「血気盛んだな。しかし間諜も放っているようだな」

「俺は兄上のように性善説を唱えられないんでね。既に間諜は放っている、後はエサやりだ」

「お前たちは性格がまぁ違うな。だが今回は元聖女の言葉もある。イージスの案を実行する事とする」


 アリスは仕事終わったぁと思った。同時に確かに聖国を追い出される前にも何度かゼブラン王国より攻撃があり、結界で跳ね返して、時には攻撃したがそれはこの第二王子イージスの部隊だったのか、と知る。まぁ知った所でどうにもならない。

 早く帰りたい、とロイスの服をちょんちょんと引っ張る。


「あ、ついでに今いい? 俺は王位継承権放棄するぜ。今は元聖国を属国として一応俺が治めているが時期にゼブラン王国の領地の一部にしてくれ。そしてそこの侍女。お前、俺の女になれよ」

「はぁ?」


 アリスは自分でも驚くくらい低い声が出た。

 このイージスは何を言っているのだろうか。侍女というと、この場にはアリスしかいない。


「お前は面白い! 俺の女になれば色んな狩場に連れてってやれるぜ。俺が敗北を帰したんだ。俺の女に相応しい」

「冗談を。私はエルさまの元で永遠と侍女をするって決めたので、お断りします」

「それってロイスの嫁だろ? 別にお前がいなくても十分ロイスが守るぜ」

「関係ありません! 私がエルさまの元にいたいのだから、それだけです。ロイスさま何か別にどうだっていいです」

「余計に気に入った! お前だって分かってるだろ。どっちが正しい選択かなんてさ。お前のエルさまも、俺の嫁になった方が守りやすいぜ」

「いえ。近くにいたほうが守りやすいので結構です。エルさまは社交も嗜みませんし、家でのお仕事を好まれるので、正直第二王子の嫁なんて肩書き、あったほうが邪魔」

「おーおー、言うねぇ。まぁ、取り合えず今回の神託? か、これを覆す為にも力貸せや」

「お断りです。いざという時は、私はエルさまに結界を張り守り通しますので、正直信じる、信じないもお任せですが、協力する気はさらさらありません。信じてどうにかするなら、勝手にどうぞ。信じないでそのままでも、どっちでもいいです。私はエルさまがお伝えしたほうが良い、と言うからそこまでしただけです。他はお好きに」


 アリスの隣にいるロイスは何も発さないが顔色を真っ青に変えている。

 だがアリスにとってはミリエルが全てなのだ。第二王子のご機嫌取りも結婚も冗談じゃない。本当にいざって時にはアリスは自分とミリエルを守る為にも傍を離れるなんて、あり得ないのだ。今も王宮くらいの距離感であればミリエルに結界を張れるので張っている。


「良い性格だな。俺はお前が気に入った。軍事演習は来なくていいぜ。だが、俺はお前に惚れた」

「どうぞ、ご勝手に」


 国王陛下はほっほっほっと笑った後、アリスに向かって言った。


「元聖女よ。約束を違えることはしない。だが、イージスも儂のいう事を聞く性格ではない。だからイージスの好きにさせるが、良いか? 儂が命ずることはしないなら、問題なかろう」

「分かりました。約束通りゼブラン王国を出る事はしません。ただ、第二王子様みたいですけど、別にどういう扱いしてもいいですよね?」

「殺したり、監禁したりは困るが、それ以外は構わんよ。何だったらちょっとした勝負をしても良い。お主の結界を破れなかった事、ずっとイージスは悔いておるからな」

「言質取りましたので、用はもう済んだのですが、帰っていいですか?」

「よいぞ」


 国王陛下の言葉にアリスは頭を下げ、ロイスを引っ張って白亜の城を出て、ルーベンス侯爵家へと帰ってきた。

 あの古狸に、第一王子はひよっこ、第二王子は馬鹿、これでも全体的にバカでアホだった聖国に比べたら百倍マシな王族ではあった。だがあの古狸には要注意と第二の馬鹿王子にも注意しなければならない。アリスは面倒事が増えたなぁと思いつつ、やはり侍女の仕事に従事することにした。


 翌朝、王宮からアリス宛に第二の馬鹿王子から手紙が届いて、燃やしてやろうかと思ったが、一応中身を開けると、始めは軍事演習内容と間諜を何処に放っているかとか、滅茶苦茶、国家機密が書かれていて、後半に俺の女になれ、と書かれていたので、やっぱり燃やした。


「ほんと……王族って碌なのいないわぁ」


 アリスは最後に一週間後にデートしたいと書かれていたが、それも無視しようと決めて、一週間後に馬に乗って単騎でやってきたイージスを見て、ため息をついた。

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