バーチャルの上のヴァイオリン弾き

川崎俊介

第1話 音楽史の終焉

 クラシック音楽の歴史において、大抵はイタリア半島で生まれた新たな様式がヨーロッパ全土に普及するのに150年はかかったという。


 そのため、下記のような音楽史150年周期説が提唱されている。


1450~1600年 ルネサンス 声楽ポリフォニーの時代

1600~1750年 バロック 通奏低音の時代

1750~1900年 古典・ロマン派 機能和声の時代

1900年~ 近現代 作曲家固有の音楽語法の時代


 しかし今はどうだろう?


 あらゆる地域のあらゆる音楽が、ネットを通じて瞬時に全世界を駆け巡る今、毎秒常に新たな時代が到来し続けていると言っても過言ではない。


 そして、時は2050年。


 続く新たな音楽の時代が訪れようとしていた。


 だが、もう音楽に新しい時代は来ない。


 わざわざ時代で区切るまでもなく、あらゆる様式が更新され続けるようになったのだから。


 そんな音楽史の終わりに、星川新(ほしかわあらた)という一人の音大生ヴァイオリニストが、活動を開始した。

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