第七話 模擬戦(4) 隊長 対 シニスター
ライアンに置いて行かれてからは少し急いで訓練場に向かうと全員が戻っていて模擬戦が終わった五人は既に観戦する場所にいた。
「次は誰が戦うんだ?早くしてくれ。」
そう言われて並び直した二組の先頭の二人が前に出る。
どうやらシニスターさんとラヴァさんのようだ。
そういえば、ラヴァさんが「対戦相手の」と言う肩書きでシニスターさんを紹介していた。
シニスターの斧に対してラヴァは槍を持っている。軍にいた時も槍だった印象がある。
シニスターの実力はまだわからないがあのラヴァさんがそうそう負けることはないと思う。
槍と斧ではどちらが優位なのだろうか。
「よし、じゃあ始めるぞ。よーい、初め!」
試合が始まった。最初に動いたのはシニスター。ラヴァは余裕そうに構えて待っている。
シニスターは斧を持たない左手を前に出した。
「魔法か。なるほど。」
隣で静観していたルーファスが声を漏らす。
すると体の前から大きな岩が放出される。
それをラヴァは軽く槍の柄でいなして岩の軌道を逸らす。
「なんだ?そんなものか?ならばこちらからいかしてもらうぞ!」
ラヴァさんらしくないような口調で煽る。
普段はおだやかで優しくて頼れる兄さん的存在だと聞いたことがあったが……うーん、今目の前にいるラヴァさんはそういう風には見えないな。
ラヴァは槍を構えながらシニスターに向かって走り出す。
シニスターはその持っている斧を空に向けて構える。どうやら迎えうとうとしているらしい。ラヴァはその構えを見てニヤリと笑う。何か対抗策があるのだろうか。
それに対してシニスターの表情は何も変わらない。焦ってはいないようだ。
ラヴァが槍の射程範囲内にまで近づき、槍を突き出すために右足で踏み込む。そして、そこから槍を出すまでの一秒もない間にまるでこの瞬間だけをまっていたかのようにその踏み込んだ足元の地面が隆起する。結果、踏み込んでいない方の足ではバランスが取れず、不意の一撃でもあったためラヴァは大きく宙に浮き上がってしまう。
だが、ラヴァさんはまだ諦めていなそうだ。槍を強く握り直してシニスターを注視する。
そしてラヴァさんが最高点にまで上がり、下がっていく瞬間、シニスターの足元が先ほどのように隆起し、シニスターも打ち上がる。
ラヴァは反撃をするためにシニスターを未だ注視している。しかし、打ち上がったことで仰向けになり視点は上を向き、槍の構えも対空的なものになった。
シニスターは表情を一切変えずに斧を上に構え、下に向けて振りかざそうとしている。
僕も含めてその場にいる全員がシニスターを見る。
だから気づかなかった。
「ウォーターウェーブ!!」
緊迫した空間にサラスの声が響く。
自然とサラスの方に目をやる。サラスは手からかなりの量の水を出している。その水の発射された方向を見ると、落下中のラヴァがいた。そして、その下にはすぐに岩の槍が待ち構えているように生えていた。
サラスが出した水はラヴァが岩の槍に刺さる寸前にラヴァに当たり、吹き飛ばされる。
落下音がとてつもなく鈍く、骨の一本や二本折れてそうな音が聞こえる。
しかし、サラスが水を出さなければ確実に死んでいただろう。
しばらくして、土の槍が崩れ、次第にラヴァも立ち上がる。それまでシニスターは何一つ動かずにただラヴァを見ていた。
ラヴァは立ち上がると痛むのか肋骨を押さえながらシニスターに近づく。
僕はやり返すのかとヒヤヒヤしながら見ていたがラヴァさんの表情は戦闘前とは大きく崩れ、晴れやかな笑顔を浮かべている。
ラヴァさんはシニスターに握手を求め、背中を軽く叩き何かを言っているようだった。その内容までは僕の耳には入らなかったが、ラヴァさんの表情からしてそんなにネガティブなことを言っているような印象はない。
それを受けてもシニスターは無表情だった。
そこで静観を続けていたウィリアムが口を開く。
「ご苦労。お前は入り口から左手にある保健所に行って応急処置をしてもらえ。よし、少ししたら五戦目に行くぞ。」
「ちょっと!?やりすぎじゃない?ねぇ!サラスが気づかなかったら死んでたよ?」
ラヴァが保健所に行った後、シニスターは何事もなかったかのようにこちらに来た。
そんなシニスターに対してルレアが声を荒げる。
それに対してシニスターは少し申し訳なそうな表情と声色で
「すまない。手加減とかここのルールがよくわからなかったんだ。第一、俺にはpr」
そこでさっきと同じように舌が絡まったようなふうに声が途切れる。
そして同じように本人はそれに対して言い直すことはしない。
……もしかして言えていないことに気づいていないのだろうか。
「すみません。さっきの自己紹介の時もだったんですけど、時々言葉が聞こえなくなるんですけどきになるのでもう一回いいですか?」
僕が指摘してみると、シニスターは目を一度大きく開いてすぐに細めて……苦しそう?悔しそう?僕には判別できない表情になる。
すると、シニスターの胸の辺りの服の内側から光が出て、視界が眩い光に包まれる。
咄嗟に目を瞑って顔を背けてしまう。そして、直感的に「死んだ」とも思う。
その瞬間、
「
リファイの声が聞こえ目を開けると、分厚い氷の薔薇が僕とシニスターを分断させるように立っており、その薔薇の半分ぐらいまで穴が空いている。
「シニスター!いい加減にしろよ!」
ライアンが怒鳴りながら近づいてくる。
「お前さ、なんでそんなに仲間を傷つけることに抵抗がないんだよ!さっきは……仕方なく許してやるけど、今回はダメだろ!なんであんな事をした。理由を言え。」
「いや、今のはjdprrmnrremskd……..。」
今回は途切れるのではなく、声が邪魔されているようだった。
シニスターは間違いなく喋り続けていた。
「お前……そういうことか。なるほど。……お前も大変なんだな。わかった。俺はお前に深く言及しないし、絶対に他の人には話さない。そして、お前達もこれ以上言及しないでやれ。こいつはただの人間。いいな?」
ん?突然ライアンが許して、俺たちにシニスターを許せと言って。
シニスターはただの人間?その言い方は……普通の人間ではないが人間として扱わないとだめということだろうか。でもなんで直接言わなかったのだろうか。ライアンですら配慮するほどの過去なのか、口に出してはいけないのか。
そして、さっきの光はなんだったんだ。あれも詮索してはいけないということだろうか。
とりあえず、お礼をしないと。
「リファイさん、さっきは助かりました。戦闘前にありがとうございます。」
「いいや、あれくらい大したことないさ。君こそ災難だったな。」
リファイはいたって爽やかに返答する。
そこで、どうやらラヴァについて行っていたウィリアムが帰ってきた。
「さぁ、再会だ。そして一つ確認だがお前たちは仲間だ。殺し合うな。わかったな?」
そう言って次のペアを前に進めるよう催促する。
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