第65話 シオンの決断

 シオンたちがザイオンから帰国してから、メディアではザイオンでのバトルフィールドのことが盛んに取り上げられていた。



『今回の派遣では、ザイオンの塩湖を奪還するというのが作戦内容だったようですね」


『はい。ラージュリアからはシオン・ティアーズ様、ヴァレリオ・グライナー様、あとAランクソルジャー、Bランクソルジャーと歌姫、サポートの人員が派遣されたようです』


『事前にクィーンの情報はなかったとのことですが、それにしても驚きました』


『そうですね。ザイオンのSSランクソルジャー、カイザー・デーメル様でもクィーンに反撃するまでには至っていませんでしたからね。

 想像以上にクィーンの魔法は厄介なようです』


『さらに驚かされたのは、シオン様がお一人でクィーンを追い詰めていたこ――』



 ソフィアがTVを消したのだが、これは帰国してからのお決まりになってきていた。

 最初のうちはチャンネルをそれとなく変えたり話しかける感じだったのだが、あまりにクィーンのことばかりが放送されている状態で消すようになっていた。


 時差ボケを考慮して二日はゆっくりと休み、今日はクラリス女王と謁見えっけんすることになっていた。

 軍から車が回され、シオンとソフィアは王城へと向かう。

 ソフィアはシオンに好きだと言ってから、不自然なほど話しかけるようになっていた。

 まるでそうしていないと落ち着かないかのように。

 だが今日は口数が少ない。今から話し合われることは間違いなくクィーンが関係することだからだろう。


 城の一室にはいつものメンバーが揃っていたが、一様に表情は硬い。

 ディーナからザイオンでの報告がされ、さらにクィーンの行方を衛星で追跡していたことも報告された。

 現在クィーンはラージュリアに近い場所で動いていないという。

 そして少しずつアスラがクィーンに集まっていることも報告された。

 ザイオンでもアスラがそれなりにいたということもあり、可能性としてアスラは本能的にクィーンに集まるのかもしれないという推測がされる。

 ディーナの報告が終わると、実際にバトルフィールドにいたヴァレリオから報告がされた。



「クィーンの魔法はやはり厄介だな。率直に言わせてもらうが、クィーンがいたらBランク以下は役に立たなくなる」


「Bランクのソルジャーでもですか?」



 クラリス女王がすぐに問い返した。



「ええ。ちょっと言いにくいことだが、クィーンの影響下にいる場合俺でもSランクのアスラは荷が重い」


「そうなるとクィーンがいるバトルフィールドには、投入できる戦力が厳選されてしまうことになるということですね?」


「はい」


「ありがとうございます。実際にクィーンと戦ったシオンさんの報告もお願いします」



 クラリス女王の言葉でシオンに視線が集まる。だが隣にいるソフィアの視線だけは、どうしてもシオンは意識してしまう。



「他のSSランクがどうかはわかりませんが、ザイオンのSSランクと同程度であると仮定した場合、SSランクではクィーンと戦闘を行うことはできないでしょう。

 そしてクィーンは僕が斬り落とした部位を取り込むことで、斬られていた左腕を再生しました。

 次戦闘になった場合、今回の損傷はすべて再生されていると考えた方がいいです」


「映像からなんとなくわかってはいましたが、やはり他国のSSランクでは戦闘になりませんか……」


「それと……クィーンは以前より強くなっていたと思います」



 シオンが告げた内容に絶句したような反応をする者もいれば、怪訝な表情をする者もいた。

 だが唯一ソフィアだけは、他の者とは違う反応であったのだが。



「以前は近接戦闘をしていないのでハッキリとは言い切れませんが、身体のサイズも一回り大きくなっていたように思います。

 サイズはそれだけで力になりますから、無視できることではありません。

 それに重力の魔法も以前より強力になっていたように思います。

 このままクィーンを放っておいたら、手がつけられなくなる可能性があるでしょう。

 ……僕の魔力が回復するまで二~三ヶ月というところだと思うので、そのタイミングで叩くべきです」


「どうして……」


(…………)



 今にも泣きそうな顔をしたソフィアが走って出ていってしまう。

 一瞬シオンは追いかけるために動きそうになるが、拳を握り締めてその場に留まっていた。

 心臓がうるさく鳴り、すぐに追いかけたい気持ちをシオンは抑え込む。



「シオン、放っといていいのか?」



 言いづらそうなことをヴァレリオが言ってくるが、他の者も同じような心境なのが表情から察しがつく。

 だがシオンはこの話をしないわけにはいかない。

 このままクィーンを倒さなければ、誰も倒せなくなってしまう可能性がある。

 そうなれば人類に未来はなく、あのときシオンが両親を失くしたような惨劇は免れない。

 そしてそれは、ソフィアにも起こることであった。



「シオンさんは、クィーンと戦うつもりなんですか?」



 クラリス女王の視線が真っ直ぐにシオンを捉えて問いかけてくる。

 このことはシオンが数日ずっと考えていたことで、もう答えは出ていた。



「ええ。べつに人類のため、世界のためというだけじゃありません。

 ただこのままだとクィーンは手がつけられなくなります。

 だから倒しておきたいんです。倒せなくなってからでは、ソフィアさんを守れない」


「……それでも、ありがとうございます」



 クラリス女王は立ち上がってお礼をした。シオンに頼ること以外に選択肢などなく、クラリス女王には止めることなどできなかったのだろう。



(だけど、もう前のように失敗はできない。多少強引にでも、状況だけは作らせてもらう)

「ただ、一つだけ条件があります」

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