第58話 第二波と蘇る感覚
一体のアスラに、ソルジャーが二〇人ほどで包囲している。
一人のソルジャーが抑え込むようにして立ち回り、それを包囲しているソルジャーたちが援護していた。
シオンは後ろの腰に固定している二本目の
包囲しているソルジャーたちの間を駆け抜け、二本目の
触手が間にあったことで浅くなり、急襲したシオンにSランクのアスラが気づいた。
一瞬シオンの視線が、相手にしていたSランクのソルジャーと交わる。
アスラはシオンに気づくが、シオンの攻撃は一振りで終わることはない。
逆手に持ち替えていた右手の
「すげぇ……」
シオンがアスラの腕を斬り落とし、援護のために包囲していたソルジャーが呟いた瞬間。
Sランクのアスラが腹部から二分されていた。
シオンの脚にある
そのタイミングを逃さず、アイドラントのSランクソルジャーがアスラの背後から上半身の頭部を斬り落とす。
すべてはシオンが斬り込んだところから、一気に倒してしまうところまでいってしまった。
「本当に属性が銀色なんだな」
「ええ」
先にSランクのアスラを相手をしていたSランクソルジャーが、シオンの瞳を見て声をかけてきた。
「ライブで観てはいたが、強いな」
「いえ、そちらもすぐに意図を察していただいて見事な追撃でした」
「あそこまでお膳立てされればだよ。本当なら三人でももう少しくらい苦戦はするもんだけどな。いろいろ聞いてみたいことはあるが、不注意でケガなんかするなよ」
「はい、そっちも」
シオンは上のランクのアスラを優先しながら倒していき、ラージュリア軍に戻りながらディーナに回線を繋いだ。
「捕捉していたよりアスラの数が多いように感じます。他の状況は?」
『可能性があるのは防衛圏外からアスラが集まっていたとかですが、なぜアスラの数が増加しているのかは不明です。
Sランクのアスラはシオン様のを合わせ二体撃破されており、残り三体は現在戦闘中です。
ソルジャーは三人であたっており、全体として状況は安定しています』
「――了解」
(Sはすでに二体倒して、残りの三体も押さえている。仮にSがさらに出てきたとしても対処は可能か)
シオンが一番気がかりであったのは、予測範囲を超えてSランクのアスラが出現することであった。
だが今の状況であれば、よほどのことがない限り対応できないといことはないだろうとシオンは結論づける。
『シオン、Sだ! そっちは片付いたか?!』
ヴァレリオが他のソルジャーに被害が出ないよう、前に出てSランクを抑えていた。
シオンは身体強化を一段階上げて、側面から距離を詰めにいく。
ヴァレリオは大剣型の
いかにもやりづらそうにしながら、致命傷だけは避けるようにしながらSランクを相手にしていた。
「――――!」
シオンは右手のミスリル製の
それはアスラの足下を地面に縫い付け、一瞬であるがアスラの動きを封じることになった。
ヴァレリオはそのタイミングで距離を取り、入れ替わるようにシオンが抑えに回る。
邪魔になる触手を即座に斬り落とし、振り上げられたアスラの腕を地面に突き刺さっている
だがそれでもアスラが止まることはなく、さらに反対の腕で追撃をしてくる。
アスラは自分が斬られたことなど意に介さずに攻撃をしてくるため、斬って反応を見ようとしていたら反撃をされていただろう。
だがシオンはそれを予測し、一歩踏み込むことで位置関係をズラす。
アスラの斜め背後を取ったシオンは、アスラを蹴り飛ばした。
その先にいるのは
シオンに蹴り飛ばされた勢いで上手く動くことができない無防備なアスラを、遠心力も加わった
ヴァレリオの
シオンがそのまま周囲のアスラの殲滅に移ったところで、今まで存在は知っていても聴いたことがない警報がディーヴァから発せられた。
「司令! 新手のアスラが現れました!」
「新手のアスラだと! 数は?!」
「おおよそですがSランク二体、Aランク二一体、Bランク一五体、Dランク三八体」
「ディーナ総督代理、ラージュリアでこういうことは今までありましたか?」
ザイオンの司令がディーナに訊ねた。このようなことは今までなかったことであり、少しでも情報がほしかったのだろう。
「いいえ。私の知る限り、こういった戦略的な動きをアスラがしたことはありません」
「すでに戦闘に入っている状況……後衛を回すか」
「司令、想定外のアスラの動きではありますが規模は大きくありません。
すでにSランクのアスラも倒していますので、このまま前線にあたってもらう方がいいかと。
幸い我々は準備もしっかりできており、バトルフィールドも優勢になっていますので」
ザイオンの司令はディーナの助言を採用し、アスラの第二波を伝えてそのまま前線で対応させる指令を出す。
「シオン、お前はここで戦線を維持しろ。俺は第二波に向けて魔法を準備する」
「わかりました」
「一班から一〇班は俺のところに集まれ!」
ヴァレリオが部隊を引き連れ、前衛と少し距離を取る。他国も同じようなタイミングで行動を取っていた。
シオンは戦線を維持するため、高ランク帯を優先して一撃だけ
仕留めきれずとも問題はない。それなりの手傷を負わせることで、それが相手をしているソルジャーにとっては一気に優勢になる。
シオンは極力斬る数を優先する方針を取り、軍全体での効率を上げた。
そして第二波が近づいてきたところで、魔法を準備していた部隊が魔法を放つ。
魔法によって勢いを削がれたアスラたちがバトルフィールドに乱入し、ヴァレリオたちも戦線に復帰した――――。
「「――――――?」」
それはこのバトルフィールドで、シオンとヴァレリオだけが知る感覚。
シオンとヴァレリオの表情が凍りついたように硬くなる。
「Bランクは下がれっ!」
シオンはとっさに叫ぶが、ほとんどのソルジャーはまともに動けない状態に陥っている。
Bランクのソルジャーは倒れるのをなんとか踏ん張ることしかできず、とても動けるような状態ではない。
アスラにも多少の影響は出ているようだが、ソルジャーたちと比べるとほとんど影響などないに等しかった。
シオンは重い身体で前にいる動けないBランクソルジャーをうしろに蹴り飛ばしながら、手近にいるアスラをとにかく倒す。
少々強引ではあるが、それが多くを助ける最速の行動であった。
だがそれでもすべてをカバーは仕切れない。
「動けないBランクを守れぇー!」
ヴァレリオも指示を出してアスラを相手にしているが、明らかに動きが悪い。
「や、やめろぉー、来るなー」
「ぅ、うわぁぁああーー」
「た、助けてくれぇえぇぇ」
アスラも多少動きが悪くなっているが、元々のサイズが違う。
動きが封じられては、その大きさの差は決定的になってしまっていた。
さっきまで優勢だった連合軍は一気に劣勢となり、そこらじゅうでソルジャーたちの悲鳴が聴こえる。
そしてこれはラージュリア軍だけではなく、バトルフィールド全体で起こっていることであった。
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