第57話 人類の反撃

 午前八時四〇分、ザイオンディーヴァ艦内。

 シオンたちは第一戦闘配備コンディションレッドが発令され、各出撃ハッチへと向かう。



「私は作戦の間は司令室にて状況を見守ることになります。

 戦力も十分ですので問題はないかと思いますが、なにかあれば私が直接ザイオンの司令と折衝します。

 今回は各国混合の編成ですので、基本は自国の損害を抑えることに注力してください」


「わかりました」


「わかった」



 ディーナの指示に、シオンとヴァレリオが返事をする。

 ディーナとはそこでわかれ、その少し先で今度は歌姫のソフィアとマリーだ。

 ソフィアは若干緊張しているようで、シオンの小指を握ったままなかなか離そうとしない。

 今回の作戦が大規模というのもあるのだろうが、これがシオンの復帰戦ということもあるのだろう。

 ソフィアにとっては、すべてを知ってから初めてのバトルフィールドでもある。

 以前のようになにも知らないわけではなく、自分たちの責任というものを感じていても不思議ではなかった。



「あまり考え過ぎなくても大丈夫ですよ? 僕たちも他にいるソルジャーや歌姫のなかの一人です。

 今日はヴァレリオさんが指揮を執るので、少しくらい怠けても大丈夫ですから」


「あ? なに言ってるんだ? 復帰戦だからって特別扱いはしないぞ。シオンなら余裕だろうからしっかり働かせてやるかな」


「そんなこと言って、ずいぶんシオン様との出撃を楽しみにしていたくせに」


「おい、マリー!」



 ヴァレリオが非難の目を向けるが、マリーはいたずらに成功したような顔をしている。

 そんな三人を見て、ソフィアの表情も硬さが抜けていた。



「気をつけてね」


「はい、またあとで」



 ソフィアたちとわかれて出撃ハッチに入ると、すでにそこにはラージュリアのソルジャーたちも集まっていた。

 入って来た二人を見て、ソルジャーたちの視線が自然と集まる。

 ヴァレリオはイヤーデバイスをコンコンと指先で触れ、ラージュリアに割り当てられているチャンネルで呼びかけた。



『わかっていると思うが、指揮を執るヴァレリオだ。今日は俺もかなり久し振りなんだが、シオンも一緒に出撃する。

 シオンには俺たちが受け持つエリアで遊撃をしてもらうことになっている。

 前までは下のランクだったから、初めてってヤツもいるだろう。

 近くにシオンがいたら、遠慮なくアスラを倒してもらっていいぞ』


「これはパワハラですか? クラリス女王陛下に報告が必要ですね」


『そこは総督までにしとけ。さすがに女王陛下はシャレになんねーぞ』


「みなさんもヴァレリオさんに理不尽なことを言われたら、今日は僕に告げ口していいですよ」



 シオンたちが軽口を叩いている間に出撃ハッチが上がっていく。

 だがこれはいつもの出撃とは違う。いつもはアスラを感知したら防衛のために出撃をするが、今回は人類側から殲滅するために出撃するのだ。

 これは人類にとって初めての反撃といってもおかしくはないものであった。


 シオンたちが現れたのを感知でもしたのか、アスラが前方に見える塩湖の右側にある森林から姿を現す。

 魔力感知でもしているのか、それとも別のなにかを感知しているのか。

 これも解明できれば戦略に役立つのだろうが、人類は今の状態でも十分よくやっている。

 なにしろアスラや魔力が現れてそう経っておらず、五〇年も経っていないなかでディーヴァまで建造しているのだから。


 ディーヴァからはビットが放たれ、ザイオンの歌姫の声がバトルフィールドを包んだ。

 シオンも他のソルジャーと同じようにソフィアの魔力を感じ、左に提げているMGAマギアを抜く。


(――前より強化が強くなってる)


 銀色に変わったシオンの瞳が、ラージュリア軍が迎え撃つであろうアスラを観察する。


(現段階ではSランクはいないか)


 Sランクがいれば真っ先に押さえにいかなければならなかったが、どうやらまだ現れていないか別の場所のようだ。


「ヴァレリオさん、こちらにSは今のところいなそうなので、僕は右寄りに位置を取るようにします」


『わかった』



 連合軍がヴァンガードワンであるカイザーの魔法発動に合わせ魔法を展開する。

 高ランクソルジャーで編成されているだけあり、展開されている魔法はさすがといえた。

 どのソルジャーも魔法の展開が速く、練り込んでいく魔力も多いため発現している魔法は激しくなる。

 一斉にアスラに着弾するソルジャーたちの魔法は、異質な存在であるアスラを一瞬で飲み込み爆発しているかのよう。


 だがこれらの魔法は見た目ほどアスラにダメージを与えることはない。

 魔力が宿らない攻撃はアスラに効果はないが、それは一定以上の魔力がない魔法も同じこと。

 アスラが宿している魔力を突破できなければ、そのダメージは見た目ほど効果はない。

 そしてこれは近接戦闘でも同じであり、それゆえにランクというのは確かに存在していた。


 風の魔法で土煙が一気に吹き飛ばされると、それが開戦の合図となってカイザーが飛び出した。

 シオンもラージュリア軍の先陣を切って距離を詰めに行く。


 今回の作戦ではBランクのソルジャーまでが参加している。

 一番多いボリュームゾーンであり、彼らに一番の被害を出すのはAランクのアスラだ。

 SランクのアスラはSランクソルジャーが対応するが、その間他のアスラに対処することができない。

 これはAランクのアスラを減らす上のランクのソルジャーが減ってしまうことを意味し、戦闘時間の増加、ソルジャーの損害へと繋がっていく。

 これを如何に減らすか、多対一の状況をどれだけ作れるかが被害を抑える鍵になる。


(確認されていたよりも、アスラの数が多い――)


 シオンはAランクのアスラを優先的に叩き、下のアスラは極力他のソルジャーに任せて倒しにいく。

 斬り込んだ勢いのままアスラの喉元をMGAマギアで一突きにし、突き刺したままのMGAマギアを右側へと滑らせる。

 横に滑らせたシオンのMGAマギアは、その右側にいるアスラごと斬り裂く。


「――――」


 それを見ていたソルジャーは、驚きで言葉が出ない。

 突き刺して勢いがついていないMGAマギアを、そこからさらに払って斬るというのは見た目ほど簡単なことではない。

 それだけ身体強化でアスラを圧倒していることを意味するからだ。


「――――!」


 右側のアイドラント軍で、Sランクのアスラが現れたことを知らせる赤色の煙弾が上がる。

 遊撃であるシオンはすぐに移動を開始した。


『俺も必要か?』


「いえ、ヴァレリオさんはそのまま指揮を執っていてください」


 ヴァレリオに返答したシオンは、そのまま視界に入ったSランクに向かい斬り込んだ。

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