第二章 CODE QUEEN

第41話 シオンの真実

 今までの常識であれば、今ソフィアの目の前で起こったことはこれまでのバトルフィールドを完全に逸脱したものだった。

 すべてのアスラがたった一人のソルジャーに倒されている。

 いつも丁寧な口調で、朝はゾンビのようにぼーっとしていて、ソフィアのことではティフに敬意を示してくれるようなソルジャー。

 だが今目の前にある光景は、今までのシオンに対するソフィアの印象が薄れてしまうほどであった。


(――――)



 すでにアスラは、すべてシオンの手によって倒されている。

 だが作戦終了を知らせる曲がまだ流れない。


『シュティーナ! シオンを回収しろ!』


 ディーヴァから総督の命令が出るのと、シュティーナが動いたのは同時だった。


『ヴァレリオは他の者と警戒だ!』


 シュティーナが弾丸のように翔け、ヴァレリオに続いて後衛にいたソルジャーたちが前に出る。

 アスラはすでに倒されているというのに、総督の声は危機がまだ去っていないような、むしろ今危機に直面したかのような声。


「っ――――」


 真っ先に動いたシュティーナが、もう少しでたどり着こうというところでシオンが倒れた。

 シュティーナは落とされたMGAマギアを拾い、シオンを抱きかかえて一直線にディーヴァへと戻ってきている。

 さっきまでうるさく鳴っていたソフィアの胸は、まったく別の感情によって鳴り続ける。

 視線はシュティーナから離れず、ソフィアの歌はすでに消えていた。


 シュティーナに抱きかかえられて戻ってきたシオンの顔は、ヴェルドで無理に魔法を発現していたカルヴィンよりも蒼白になっていて、明らかに魔力が枯渇しているのが一目でわかる。

 ソフィアが無意識にシオンとの繋がりであるブレスレットに視線を移す。

 左腕につけられているブレスレットは、今まで銀色に輝いていた光が失われてしまっている。


 準備されていた医療チームの下へシュティーナが戻ると、シオンはすぐに担架に乗せられた。

 医師らしき人物が脈などを確認している間に、ローランド所長の指示で次々と機器が取り付けられていく。

 シオンはそのままディーヴァで精密検査に入り、出てきたときには心電図、酸素吸入器、脈の測定器、点滴が取り付けられた状態になっていた。


 シオンはソフィアの部屋に運び込まれ、ソフィアはアイズと共にその側でシオンが目を覚ますのと待つ。

 少しするとドアがノックされ、部屋に来たのはジョルディ総督、ディーナとローランド所長だった。



「どうしてシオンがこんなことになってるんですかっ! ブレスレットの光まで消えてしまってるんです!」



 まくし立てるように問い詰めるソフィアに、ディーナがソフィアの両肩を抑えてやさしく答えた。



「わかってます。それを話すために私たちは来た。シオン様は大丈夫だから、座って話しましょう」



 ディーナが人数分の紅茶を用意し、五人は応接用のテーブルについた。

 最初に話を切り出したのはジョルディ総督だ。



「今からシオンのことを話す。これは今回シオンがクラリス女王陛下の出撃要請に応じるときに出した条件でもある。

 近いうち我々も話すつもりではあったんだが、状況がこうなってしまい遅くなった。

 だがこれだけは肝に命じてほしい。

 今から話す内容はラージュリアの機密のなかでも、国家レベルの最高機密になっている。

 これを知っているのはクラリス女王陛下と我々三人、あとはラージュリアの現Sランクソルジャーとその歌姫、魔力研究所で携わった者だけだ。

 とはいっても、大半は今回のことで公になるんだが」


「あの、私はここにいていいのでしょうか?」



 アイズが遠慮気味に問いかけた。今の話からすれば、アイズが聞いていい話ではないと思ったのだろう。



「今回アイズさんのディーヴァ搭乗は、シオンの条件に含まれている。

 ソフィアちゃんの一番身近であるアイズさんにも話すように言われている。今更ではあるが、まずはこれを」



 ジョルディ総督が出したのは、軍のデバイスでウィンドウに表示されたシオンの情報であった。


 氏名/シオン・ティアーズ 年齢/一八歳 国/ラージュリア

 所属/ラージュリア軍国家特別戦闘部隊 ソルジャーランク/SS

 属性/空間・重力 魔力量/EX 魔力コントロール/EX

 パートナー/第一歌姫 ソフィア・エーベルハイン 第二歌姫/ ユリア・クリステル



「…………」


「これは――それに、この魔法属性は……」



 ソフィアは一瞬目を大きくしたがなにも言葉はなかったが、その代わりかのようにアイズは小さく呟く。

 そんな二人を見て、ディーナが問いかけた。



「クィーンが確認されたバトルフィールドを知っていますか?」



 あまりその質問に反応を示さなかったソフィアがこれに答える。



「ソルジャーと町がクィーンの出現で全滅してしまい、生き残ったのが数人だったっていうバトルフィールドですよね?」


「そうです。正確には生き残ったのは五人。当時Sランクソルジャーであったミシェル・ローグ、ヴァレリオ・グライナー、Aランクであったケネット・マクラウド、シュティーナ・アルヴェーン。

 そして民間人であったシオン様の五人です」


(――! シオンが両親を亡くしたのって、クィーンのバトルフィールド)


「このバトルフィールドではほぼ確定の推測で、クィーンは重力を操っています。

 その範囲はバトルフィールド全体に及び、このためビットはすべて破壊されて映像が残っていません。

 ですがミシェル・ローグの証言で、シオン様の特殊性が報告されることになります」



 ソフィアはディーナの言葉を聞いて、もう一度開示されたシオンの情報に目がいっていた。

 そこに記載されている魔法属性と、さっきバトルフィールドで目にしたこと、クィーンが現れたバトルフィールドで偶然あった隕石の落下。



「未知の属性でるためシオン様の魔法属性は無属性の分類に今はなっていますが、クィーンと戦えるのは同じ重力を操れるシオン様だけなのです。

 これだけでも如何に我々にとって重要なソルジャーであるかは、おわかりいただけると思います」


「だけど問題はここからだった」



 続いて口を開いたのはローランド所長だ。



「他の四人のソルジャーと運び込まれたシオン君は、シオン君だけ意識が戻らず身体機能の低下が見られたんだ」


「――――それって――」



 ソフィアはハッとした表情をして、ベッドで横になっているシオンを見た。



「うん、この話は今のシオン君の状態にも繋がる話だ。ところでソフィアさん、ソフィアさんは亡くなった人の魔力はどうなると思う?」


(え? いきなりどういうこと……)



 突然の質問にソフィアは困惑するが、ローランド所長の顔は結構真面目な顔をしている。

 たしょう好奇心のようなものも感じさせるものではあったが、ふざけているような雰囲気はなかった。



「――――失われるとか、消えるというかんじでしょうか……」


「うん、そうだね。亡くなった人の身体は機能が停止するから当然そうなる。

 魔力は使えば失われ、時間の経過とともに回復する。

 イメージとして近いのは、体力と呼ばれるものだろうね。

 シオン君はこの魔力が回復する速度が、他のソルジャーと比べて著しく遅いんだ」


「「――――」」


「さっきの話に少し戻るけど、クィーンが現れたバトルフィールドでシオン君は魔法を使っている。

 そのおかげで今のSランクソルジャーは助かっているわけだけど、このときシオン君は三週間意識が戻らなかった。

 このときに魔力の回復が遅いことがわかったんだ。

 これが彼の魔法による特性なのかどうかはわからない。

 今のところの私の推測はあれだけの規模の魔法だから、膨大な魔力を消費している魔法の負荷。

 あとは二つの属性の魔法を使っているから、その負荷という可能性もあり得るかな。

 二つの魔法属性を持っているソルジャーなんて、シオン君以外に今のところいないからわからないことだらけだけどね」

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