第38話 シオンの魔法
シオンがソルジャーたちの前に進み出ると、たまたまいたパトリックとニルスが追いかけてきて声をかけようとする。
パトリックがシオンに手を伸ばしたが、その手がシオンに届くことはなかった。
「すみませんが、今はあなた方と話す余裕はないんで」
シオンは視線だけを流して、四つん這いになっている二人に言った。
「お、重い――お前――がなにか――――したのか」
パトリックが問いかけるが、シオンがそれに答えることはない。
そしてそのすぐ横で、ラージュリアのSランクソルジャーであるヴァレリオたちが左胸に手をあてて膝をついていた。
その光景を見たソルジャー、歌姫たちがざわつき始める。
最高戦力であるSランクソルジャーが敬意を示しているのもあるが、シュティーナも膝をついているということがざわつきを大きくしていた。
「この布陣、魔法を使うのか?」
膝をついたままヴァレリオが問いかけた。
「ええ。今Sランクのソルジャーを失っては、それが致命的な損害になる可能性がありますから」
ディーヴァからビットが放たれ、演奏が流れ始める。
「これが終わったら、ソフィアさんにもすべて話すことなっています。少し復帰にかかるでしょうから、フォローしてあげてください」
「ああ、わかった」
「ソフィア、任せる」
「事務所も同じですから、ユリアさんとバックアップします」
シオンがディーヴァのメインステージに目を向けると、ブレスレットに手を触れているソフィアと目が合った。
そしてソフィアの声がバトルフィールドに響き、シオンは身体強化で移動し前衛となる位置につく。
『――シオン、聴こえるか?』
「シオン・ティアーズ、聴こえます」
イヤーデバイスに、ディーヴァにいる総督から通信が入る。
今回のバトルフィールドでは、総督がバトルフィールドの指揮を執っていた。
『歌姫がいる状態でまともに身体強化したのは初めてだろうがどうだ?』
「問題ありません」
『わかった、頼んだぞ――――これよりアスラ殲滅に移行。
「
シオンの視線の先には、三桁を超えるアスラの姿があった。
その姿はどす黒く、宇宙から飛来したであろう異型の生物。
オレンジの光が防衛のために布陣している人類に標的を定め、捕食するために迫って来ている。
普通の人間ならば、目の前に広がるアスラを見れば恐怖するだろう。
そんな光景を銀色に輝いている瞳が見据えていた。
(まずは足を止める)
向かってくるアスラをしっかりと視界に収め、シオンは左手で右腕を支えるように掴む。
右の掌はアスラに向かけられ、シオンの瞳の輝きが増す。
他のソルジャーたちのように、頭上に魔法が展開された様子はない。
だが、変化は起きていた。
「――! なんだ⁉ アスラの動きがおかしいぞ!」
「おい、あれ、Dから下は潰れてるぞ……なんなんだよ」
向かってきていた動きが止まり、次々と押し潰されるようにアスラが潰れていく。
DからFランクはすべて潰れ、この時点でアスラは一八二体から七九体にまで減る。
Bランクはほとんどまともに動けず、Aランクもかろうじてという状態。
唯一Sランクだけは、すでに動き出そうとしていた。
(Bは残ったか。七九は多いな――)
シオンはそこからさらに追撃をかける。魔法による第二撃。
これは足止めではなく、殲滅するための魔法。
薄っすらとオレンジの色が混じり始めている空に赤い線が走る。
その光景を見た者たちから、以前同じような話があったバトルフィールドのことが
「これって、クィーンが現れたバトルフィールドであったのと同じじゃないのか?」
「まさかこれが魔法だって言うんじゃないよな……規模がおかしいだろ」
上手く動けていない残ったアスラに向かい、雲を突き抜けて上空から赤く燃える小さな隕石が降り注ぐ。
それは最早人が扱う魔法の域を超えた天災とも呼べるもの。それが明確に標的を定めて襲う圧倒的な面制圧。
何百という破壊力を持った弾丸が、轟音を響かせて大地を撃ち付けた。
サイズが大きいBランクは隕石によって風穴だらけにされている。
Aランクは多少動けはするが、降り注ぐ隕石のスピードはそれを上回っていた。
運が悪かったアスラは身体を抉られ、一瞬で隕石に持っていかれる。
硬い金属のような甲殻など意味を成していなかった。
時間にしてそれは三〇秒ほど続き、アスラがいる場所には小さなクレーターがいくつも作られることになる。
あとには残骸となったアスラと、損傷を受けたアスラ。
それはSランクも例外ではなく、隕石に応戦するために伸ばされた触手は止めることはできないでいた。
脚部などの一部が抉れているのもいれば、隕石によって絶命したSランクもいる。
これは他のソルジャーたちが使うような、戦術レベルの規模ではなかった。
場合によってはこの魔法だけで殲滅できてしまうほどの理不尽な戦略レベルとも言える魔法。
初手で使われたシオンの二撃の魔法で、Sランクのアスラが一三体、AとBランクで一九体にまでなっていた。
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