第34話 女王から告げられる危機

 ホテルに入ったところのロビーということもあって、すぐ側にいた他の代表メンバーの視線を集めてしまう。

 いつもであれば配慮されているところであるが、それよりも確実に捕まえることを優先したようだ。



「そうですか……わかりました。ソフィアさん、アイズさんも一緒に来てください」



 シオンの表情はソルジャーの顔つきで、クラリス女王からの呼び出しというのもあってソフィアとアイズは動揺していた。

 特にアイズはソフィアのマネージャーというだけなので、なおのこと同行していいものか判断できないようであった。



「どのみち呼び出されることになりますから、僕と一緒に来てください」



 執事に案内されてクラリス女王がいる最上階へと来た三人であったが、今回は前回と違いセキュリティーチェックも素通りで通される。

 部屋に入ると正装のクラリス女王と、護衛に就いているシュティーナが待っていた。

 窓からはオレンジ色の光が射し込み、そう時間を置かずに日が落ちようとしている。


 クラリス女王は一瞬アイズに視線を向けるが、シオンはそれを無視して膝をついた。

 前回ここでSランクバトルフィールドの観戦をしたときとは明らかに違うのを感じたのか、ソフィアとアイズもシオンの後ろで同じように膝をついて頭を下げる。


「シオン?」


「二人には僕が一緒にきてもらいました」


「……わかりました。ではこのまま進めましょう。軍からの報告は受けていますね?」


「はい。衛星からの情報は受けています」


「現在我が国に向かってきている規模は一八二体で、そのうちSランクが一五体います」


 ソフィアとアイズは最初怪訝な表情をし、なんの話なのかよくわかっていないようだった。

 だがそれもSランクという具体的な言葉がクラリス女王から口にされて察しがついたのだろう。

 二人ともクラリス女王に視線を向けてしまう。

 クラリス女王は一瞬視線を二人に向けるが、それを無視して話を続ける。


「この危機的状況はクィーンが出現したバトルフィールドを除けば、最も厳しいバトルフィールドになることでしょう」


「それでクラリス女王陛下をはじめ、各国の代表がヴェルドに姿を見せなかったということですね?」


「そういうことです」





 クラリス女王はエメリックに集っている各国を招集した。

 ラージュリアにはSランクのソルジャーは三人いるが、Sランクのアスラが一五体相手では各国から派遣を要請する必要がある。

 なにしろ一体につき三人必要と考えれば、今現存するSランクソルジャーを全員派遣してもらったとしても間に合わないのだから。


「ちょっと待たれよ……。それは可能性ではなく、間違いなく戦闘になるということで間違いないのですか?」


 クラリス女王が状況を告げると、各国の代表たちは疑うような反応をみせた。

 今告げられたことは、まだ可能性の段階の話であると思いたかったというところだろう。


「我が国も衛星画像の段階では、こうならないことを祈る思いでした。

 ですがアスラは我が国に向かっており、すでに感知システムでもその動きを捕捉しています。

 もはやこの脅威は可能性の段階を過ぎ、我が国に現実として差し迫っている脅威となっています」


「だがそうなると、Sランクをすべて集めたとしても規定数に満たない。Sランクに損害が出る可能性は決して低くはないぞ」


「クィーンがいるというわけでもないのに…………Sランクの被害次第では、人類全体の命運が決まってしまう可能性すらあり得る」



 各国は高ランクソルジャーを派遣し合い、人類全体としてアスラと戦っている。

 これは人類の存亡をかけた戦略ではあるが、今の状況は派遣をすることによって損害が出た場合、クィーンが現れたときの戦力が今よりも落ちることが懸念される状況。

 クィーンが倒せなければ人類の滅亡は確定してしまうため、ラージュリアを守ることが人類の選択として正しいのかということであった。



「ラージュリアを失うのは痛いが、今からでもできる限りの避難を各国でするのは?」


「ですが五〇〇〇万人を避難させるのは物理的に不可能です」



 各国から出される案に、クラリス女王は苦虫を噛むような表情になる。

 だがクラリス女王自身、人類全体で考えるとこのような流れになるのもわかっていたのだろう。

 テーブルの下では拳をギュッと握り込みながらも、この流れを止めることができないでいた。

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