第35話 出撃要請
「各国からのSランクの派遣はどうなりましたか?」
シオンが訊ねると、クラリス女王は悔しさをありありと表情に浮かべてそれに答えた。
「――――クィーンとの戦闘にはラージュリアが必ず出撃すると宣言したことで、二一人のSランクソルジャーが派遣されます」
このクラリス女王の言葉には、ソフィアとアイズの顔色はどちらとも言えないものになる。
二一人ものSランクソルジャーがラージュリアのために派遣されるというのは大事であり、心強い援軍に他ならない。
だが今まで確保していた一体につき三人というのは割ってしまっていた。
「そうですか。他の防衛力も考えれば、クラリス女王陛下は十分な派遣を取り付けることができたと僕は思います」
「私の力が及ばず、ここでカードを切ってしまうことになりました。シオン、あなたには申しわけなく思います」
申しわけなさそうに言うクラリス女王を見て、ソフィアとアイズがシオンに目を向けていた。
ラージュリアが今までにない状況だというのは理解しているだろう。
先日エメリックであったSランクバトルフィールドなど比較にならない事態。
だがこの話に二人がつれてこられたこの状況と、なぜシオンにクラリス女王が謝罪するのかが理解できないというような目を向けていた。
そしてそれも、クラリス女王の言葉でさらに色濃くなる。
「このバトルフィールドは、今までのものとは比較にならないものです。
よって、バトルフィールドランクは正式にSSランクと認定されました。
ソルジャー、シオン・ティアーズ。
私クラリス・ラージュリアが女王である権限を行使し、正式にSSランクバトルフィールドへの出撃を要請いたします」
護衛で一緒にいるシュティーナはなんの反応もないが、ソフィアとアイズはクラリス女王の前でもそうはいかなかった。
それほど二人にとって異様なことが起きている。
どうしてSSランクバトルフィールドにシオンがというのもあるが、それに女王の権限を行使というのも普通じゃなかった。
「その要請を受諾いたします。それにあたり、少しお願いしてもよろしいですか?」
「わかりました。どのようなことでも応えましょう」
「これから我々はすぐ帰国することになります。それにソフィアさんのマネージャー、アイズさんを一緒に帰国させ、ディーヴァに同行してもらいます」
「かまいませんが、それが必要なことなのですか?」
「僕が出撃する以上、ソフィアさんも出ることになるので戦闘後にすべてを開示してください。
そしてアイズさんは、ソフィアさんのいつも側で動いているマネージャー以上の存在になっています。
ソフィアさんのためにも、アイズさんは知るべき人です」
「わかりました。二人には作戦終了後、私の名において必ずすべて開示することを約束いたします。
帰国の件とディーヴァの方も、私から手配させておきましょう」
出撃まではそう時間もないため、シオンたちはすぐに帰国の準備をすることになった。
クラリス女王の部屋を出ると、慌ただしく帰国のための準備が進められている。
そんななか、当然だがソフィアがシオンに声をかけてきた。
「どういうことなの? Sランクバトルフィールドだと、出撃するのはBランク以上だよね? それに話って……」
「出撃前に話せるようなことではないので、終わったらちゃんとわかるようにします。それまで待ってください」
「……うん、わかった」
シオンたちはその日のうちにラージュリアに発つため、夜には軍の滑走路に集まっていた。
今回のバトルフィールドランクは戦力的な観点から、通常の規定よりも高くなっている。
それを派遣される各国のソルジャーたちも理解しており、みな一様に険しい顔をしていた。
恋人関係のソルジャーと歌姫も多いようで、手を繋いで寄り添う姿も多い。
通常のバトルフィールドならここまでの雰囲気にはならないのだろうが、今回のSランクソルジャーは他のランク帯よりも危険度が段違いに高いというのがある。
Sランクのソルジャーが足りていないため、倒れるのは自分かもしれないという状況に不安を感じていてもおかしくはなかった。
「Sランクのソルジャーでも、あんな雰囲気になっちゃうくらいなんだね……」
機体が離陸して、三人席の中央に座っているソフィアが小さな声で言った。
「戦力が足りていないようですから、本当に命懸けの出撃になるということなんでしょうね」
二人が不安そうにしている横で、シオンは軍のデバイスからウィンドウを出してあっちこっちと目を走らせている。
そんなシオンにソフィアがウィンドウを覗き込まないように話しかけた。
「なにか調べてるの?」
「今上がってきてる情報をチェックしてました」
「もう出撃する人数とかも出てる?」
「まだソルジャーの配置は決まっていないようですが、ざっくりとしたものは出てます」
「え? 見せてもいいの?」
「出撃数とかは民間の人たちにも公開される情報ですから。少し早いか遅いかってだけです」
シオンがウィンドウをソフィアたちの方に向けたので、作戦関係の情報にはアクセスできないソフィアやアイズは一瞬驚いていた。
バトルフィールドランク/SS アスラ/一八二
アスラ S/一五 A/三九 B/一八 D/三五 E/二八 F/四七
ソルジャー出撃数/六六〇 ヴァンガードワン/
S/二四 A/四五八 B/一七七
(Aランクの出撃数が思ったより少ない。Sランクのアスラを抑えるなら被害が出るのを覚悟で、Aランクをもっと出すしかないけど……。
ラージュリア側が出し渋ることはないだろうから、各国が派遣する数を抑えたっていうことか)
「まだヴァンガードワンは決まっていないみたいですね」
「自国のソルジャーが普通なるから、やっぱりラージュリアから出るんだよね?」
「通常ならそうなるでしょうね。ラージュリアに戻ったらディーヴァで仮眠くらい取る時間はありますが、今のうちに少しでも寝といた方がいいですよ」
機体のなかはライトがすでに落とされ、薄暗い状態になっている。
シオンも用意されている毛布をかけて背もたれを倒すと、毛布の下でソフィアが手を握ってきた。
緊張しているのか、握ってきた手に力が入っている。
それをシオンはそっと握り返して目を閉じた。
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