第30話 クラリス女王陛下

 翌日は朝からSランクバトルフィールドの話題一色になる。

 TVやネット記事、ホテルで朝食を取るレストランでもこの出撃の話題になっていた。

 シオンが起きたときにはすでにシュティーナはエメリックのディーヴァである。

 これは作戦ポイントまでの移動時間から、睡眠時間を考慮して昨晩のうちに移動を開始したためだ。

 ソルジャーや歌姫のコンディションを万全で出撃させるため、夜中から明け方は睡眠にあてられる移動スケジュールとなっていた。



「あ! シオン、おはよ」


「シオンさん、おはようございます」



 シオンが遅めの朝食を取って戻ると、部屋の前にソフィアとアイズがいた。



「シュティーナ様の出撃、一緒に観ようと思って」



 シオンも観るつもりだったが、これはエメリックにいる人たちだけではない。

 Cランクバトルフィールド以上は各国でライブ配信がされるため、世界で注目されるバトルフィールドになっているのは間違いなかった。



「シオン、Sランクソルジャーだけの出撃みたいだけど、アスラの数の方が多いじゃない?

 いつもは倍以上の人数をかけてリスクを抑えているけど、今日は逆だからどう思う?」



 シオンたちが知っている情報では、今向かってきているアスラはSランクが三、Aランクが一四、Bランクが九、Dランクが二四、Fランクが六八となっている。


 SランクのアスラはFランクと同じ二足歩行型で、体長は三メートルとそれほど大きくはない。

 だが内包している魔力が高く、魔法による攻撃のダメージはSランクソルジャーでも通りにくい。

 スピードもあり、尻尾の他に背面から触手も伸ばしてくるため手数が多く攻撃範囲も広いのが特徴。


 Aランクは四足歩行型で体長五メートル級。Sランクのアスラは段違いのスピードであるため比較にならないが、Aランクも他のランクのなかではトップスピードを持っている。

 パワーに関してはSランクとほとんど変わりがなく、甲殻のような物があり硬い。


 Bランクの大きさはアスラ最大で体長一〇メートルある。

 他のアスラと少し違い、その巨大な身体は八本の脚で支えられて俊敏性はない。

 とにかく他と比べて大きいため耐久力があり、その質量が最大の特徴であった。



「SランクならまずDとFのアスラは物の数に入らないでしょうね」


「え? DランクもSランクからするとそんな感じなの? この前のDランクバトルフィールドだって大変だったけど……」


「あれは少し特殊ではありましたけど、ランクの違いはそれくらいあります。

 たぶん九、もしくは一二でSを叩いて、残りが他を殲滅していく感じになるでしょうね」



 シオンの部屋で三人が話していると、ドアがノックされた。



「シオン・ティアーズ様、女王陛下がお呼びでございます」



 部屋を訪ねてくる人にシオンは心当たりがなかったが、来たのはクラリス女王の執事だった。



「シュティーナ様が出撃されていますので、しばしの間護衛をお願いしたいと」


(これは話し相手に呼ばれたんだろうな……)



 話し相手ということは、つまり暇潰しなわけだが行かないわけにもいかないのだろう。

 シオンはソフィアとアイズをつれて、クラリス女王がいる最上階へ向かった。

 エレベーターを出てすぐのところで身体検査を受け、シオンたちはクラリス女王がいる部屋に案内される。

 案内された部屋は寝室が複数あり、応接スペースもかなり広い。

 TVも大画面で、ゆったり鑑賞できるようになっていた。



「シオンさん、こっちで一緒にシュティーナのことを観ましょう」


「あの、シオンさん、本当に私までいいのですか?」



 アイズはこんなことになるとは思っていなかったのか、心配そうに訊いた。

 ソフィアは二人が知り合いということを先日聞いていたのでアイズほどではないが、それでも自分たちもいていいのかという顔をしている。



「護衛って表向きですよね? 二人が先約でしたので、ご一緒させてもらっていいですか?」


「はい、かいませんよ。せっかくですから、一緒にシュティーナの勇姿を観ましょう」


「それより、あんまり気軽に呼びつけないでください。僕はメディアの人に女王陛下について訊かれるのはいやですよ」


「ここなら大丈夫ですよ。さすがに他国なので、少し羽も伸ばせるわ」


「シオン、相手は女王陛下よ? もう少しちゃんとした方が……」


「僕たちは暇つぶしに呼ばれただけですから、大丈夫ですよ」


「え? そうなの?」


「シオンさん? それは違いますよ? 国内ではお話する機会がなかなかないので、お話をしようと思って呼んだんですよ?」


「本当なら今頃僕は、家で観れていたはずなんですけど」


「そうですね。今年から四年間はシオンさんがいますから、ヴェルドは楽しみね」


「四年間僕を引っ張り出すつもりですか?」


「今年のようなことはもうしないわ。総督には来年からヴェルドに参加させるように言ってあるから、来年からは選抜試験をやってくださいね?

 ヴェルドで優勝したら、ご褒美をあげてもいいですよ」



 そう言うとクラリス女王は白いワンピースの裾を少しだけたくし上げ、白く綺麗な内腿をみせてきた。



「シオン! 女王陛下の御御足おみあしを見るなんてダメよ!」



 両手で頬を挟んで、ソフィアは自分の方へシオンの顔を向ける。

 それが思ったよりも近かったからか、ソフィアは顔を赤くして目を逸らしていた。



「あら、せっかくのサービスタイムでしたのに残念でしたね?」



 クラリス女王が半分ふざけているような言動に、ソフィアとアイズは少し戸惑っているような顔をしている。

 相手は女王であるためどう反応すればいいのかというのもあったのだろうが、クラリス女王がそんなことをするような関係性がシオンにあるということの方が大きかったようだ。

 現にソフィアとアイズは、シオンの方に目を向けていたのだから。



「ソフィアさん、首が痛いです」


「あ、ごめんね」


「やっぱりお城でおじさんたちを相手にするより楽しいわ」

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