第3話 孤独な歌姫

「――――」


「――――これはどういうことなんですか? ほとんどなにも書いていないじゃないですか。

 申し訳ありませんが、軍の方をお願いできますか?」



 シオンはアイズに言われて軍のカードデバイスを操作し、ウィンドウを二人の方へと向けた。



 氏名/シオン・ティアーズ 年齢/一八歳 国/ラージュリア

 所属/ラージュリア軍国家特別戦闘部隊

 ソルジャーランク/  属性/  魔力量/  魔力コントロール/

 パートナー/第一歌姫  第二歌姫/



「軍の方までなにも記載がないなんて……すでに実戦経験をお持ちなんですよね? ソルジャーランクと属性を教えてください」


「ご存知だと思いますが、ソルジャーランクを教えることはできません」


「……意味するところは理解できますが、暗黙の了解でパートナーである歌姫にはみなさん開示しています。

 実際に戦闘するわけではなくても、歌姫もソルジャーと同じようにバトルフィールドに出撃するからです。

 それでもシオンさんは、歌姫は知る必要がないとお考えですか?」



 シオンが少し思案していると、ソフィアが少し譲歩するような形で訊ねた。



「では、どのランク帯のバトルフィールドに出撃しているのか教えてもらえる? それと、パートナーはいるんだよね?」


「出撃したことがあるのはFランクと、何度かEランクがあるだけです。魔法属性はなくて、歌姫は第二歌姫がいます」


「――――」


「――――ソフィア、さすがに今回は……」



 どのバトルフィールドに出撃しているのかで、ソルジャーランクの目安にはなる。

 そしてFランクバトルフィールドは一番下のランクである。

 そこを主戦場にしているということは、Fランクソルジャーと考えるのが普通だ。


 そして魔法属性がないということは、一般的に魔法が使えないことを意味していた。

 属性は四大属性とされる火、水、風、土があり、通常素養のある属性によって魔法が発現する。

 これがないということは魔法が使えないということを意味していて、そのせいなのか魔力量や魔力コントロールも伸び悩むケースが多いのが実情だった。



「アイズ、他ではダメ。確かに私はそれなりに相性が悪くてもサポートできる自信はある。

 でもそのソルジャーは、私じゃなくてもそのフィールドランクで戦える。

 だけどシオンだったら、Dランクのバトルフィールドに押し上げることができるかもしれない。

 上のランク帯で戦える人が増えた方が人類のためになると思う」



 確かに軍は少しでも高いランクのソルジャーを必要としている。

 上のランクに行けば行くほどソルジャーの数は少ないため、そういう意味でも極力相性がいいパートナーを推奨していた。



「いつも言われていた、歌姫のためというのは本当だったんですね」


「そうよ? 私はいつもそう言っていたわ。事務所にもそう言って、歌姫を優先する契約で所属しているし」


「歌姫の信念をすでに持っているんですね。ファンになってしまいそうです」


「今までは違ったのかな? なら、これからキミのことファンにしてあげる。私をキミの歌姫にして?」


「すごくうれしいですが、お断りさせてください。僕はパートナーを持つつもりはありませんので」


「え?! どうして? それに第二歌姫はいるって」


「それは軍がどうしてもと。お話自体はうれしかったです。

 ソフィアさんの素敵なところも見ることができましたし、お話できて楽しかったです。

 では、僕はこれで帰らせていただきます」



 シオンが部屋を出ていくと、アイズが見送りに出てきた。

 エレベーターのなかでも会話はまったくなかったが、アイズはホテルの外まで出てきて深く頭を下げて見送りをしている。

 否定的な意見を口にはしていたが、悪気があっての言葉ではなかったのだろう。

 そしてこのとき、シオンにはソフィアの行動力をまだ知る由はなかった。




「ねぇアイズ? ソルジャーってみんなこんな家に住んでるの?」


「……そんなことはない、はずよ……ケネット様だってこんな家には住んでいなかったはず。

 まだケネット様やクラリス女王陛下のお住まいだって言われた方が……」


「そうよね……シオンって実は、世界有数の大富豪とかなのかしら」



 シオンが帰宅した家を遠目から車で見て、二人が話していた。

 アスラが出現して人類の生存圏はかなり小さくなった。

 今でこそ立て直しているが、まだ人類が安全に暮らせる場所は広くはない。

 アスラの感知システムの配備や、戦力という観点からなかなか勢力圏を広げることができていないのだ。

 こういったことから、各国の住居は集合住宅が中心になっている。

 一戸建てもあるが、マンションなどと比べて価格が五倍以上が当たり前の相場になっていた。





 シオンはTVを流したまま、居間に置いてあるタブレットを取った。


 ソフィア 歌姫


 検索すると、いくらでもソフィアに関連するページが表示される。

 同時にサジェストでも出ていたワードが目に入ってきた。


 孤独な歌姫


 歌姫の能力的には、ラージュリアのなかでも一〇本の指に入る可能性があると書かれている。

 シオンも実際に能力値を見ているが、現段階でも五本の指に入るほどであった。

 学生のうちであれだけの能力を持っているのだから、周囲の期待が大きいことも頷ける。

 すでに何人もの現役のソルジャーがパートナーとなる打診をしていたらしいが、相性値の部分ですべて断ることになっていると書かれていた。



「孤独な歌姫か……」



 歌姫の記事とは変わり、アーティストとしてのソフィアの記事はポジティブな内容が多い。

 ソフィアが出す新曲は、ほぼチャート上位にまで上がる。これはかなりすごいことだといえた。

 なにしろチャート上位には現役の歌姫や、なかにはソルジャーが常にいるからだ。


 魔力を持つ者がみんなソルジャーや歌姫になるわけではない。

 かと言って魔力を持っているからと強制的に徴兵をすれば、それはただの兵器であり差別となってしまう。

 なにしろほとんどの者は魔力を持たないため、そんな者たちの奴隷と言える存在になってしまうからだ。

 だが人類が生き残るためには、ソルジャーと歌姫が絶対に必要な存在。

 これを解決するために、各国はソルジャーと歌姫を社会的にステータスのあるものに仕立て上げた。


 バトルフィールドから映像を配信し、国民にアスラとの戦闘は現実としてあることを認識させる。

 ソルジャーの戦いは人々の心を打ち、魔力を持つ者にとっては憧れの対象となるようにした。

 そしてソルジャーを支える歌姫にも、当然人々の関心は集まることになる。

 その結果楽曲のチャートは現役の歌姫などが常連となるのは必然だった。


 そんなところに、まだ歌姫ではないソフィアがランクインしている。

 それが面白くない者もなかにはいた。

 歌姫として期待されているソフィアだが、ずっとパートナーとなるソルジャーがいない状態。

 歌姫としての能力があり人気があろうと、バトルフィールドで歌えない歌姫に価値はないと揶揄する者もいた。

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