第4話 最後の因子、意外な場所に
あれから世界を広く周り、ソロンたちはいつの間にか四人と一匹という大所帯になっていた。
まずは好奇心が旺盛で人間に興味があり、ソロンとの目的が一致したというマーフォークのミカリだ。姿かたちは人間によく似ているが、水辺あるいは水中で活動できるようにエラや水かきが進化した人間と言っていい。もっと昔には人間と結婚したものもいたとか。彼女は生まれてから人間という存在を聞いたことはあれど見たことがなかったらしく、最初はソロンを彼女の国に連れて行かれるところだった。それを、なんとか説得して新しい人類が誕生した際は共生してもいいという条件で同行してもらっている。
次はエルフのフィルフレッド。彼もまた人間に近い種族ではあるが人間ではない。今は過去にソロンから恩を受けたこともあり旅に加わってくれている。だが彼の一番の目的は、結婚相手を見つけることらしい。彼の国は極端な女性不足でなかなか結婚相手が見つからないそうだ。寿命も人間の十倍近くある彼らはあまり
最後はジャイアントのギンドーリア。彼女も目的としてはフィルフレッドと同じで番探しだ。だが彼女のお眼鏡にかなう男はそういない。七メートルもの体格差と言う明確な種族の違いを超えられるものがなかなかいないからだ。とはいえ彼女のおかげでスラまるのための収集が捗っているのもまた事実。手伝ってもらって自分はハイサヨナラ、というのはいささか卑怯だ。
他にも亜人(魔物でなく、人間に近い種族)たちと知り合うタイミングがあったが、色々あって今はこのメンバーで旅をしていたある日、ソロンたちは魔王城の近くまで来ていた。
「懐かしいな。俺が目覚めてからだいたい世界を一巡りってとこか」
「へぇ、人間とここの親玉が戦争してたってのは知らなかったなぁ」
ミカリは興味なさそうに相槌を打つ。ソロンとの会話自体は楽しんでいるようだ。
「早く行こう。そもそも世界を一巡りしても、望む因子を持った魔物が見つかっていないんだろう?」
フィルフレッドは冷たく言い放つ。かれこれ四カ月以上成果が上がっていないことに、何故か彼が焦っている。
「いーじゃんいーじゃん。みんな生きてて楽しくやれてるんだから、それでじゅうぶん」
大してギンドーリアは能天気なものだ。ふわっとした受け答えは彼女らしいとも思えた。
「……どうした、スラまる」
あれからすっかり多くの因子を吸収し、見た目はほぼ人間、それもカワイイ女の子に成長をしつつあるスラまるは、今まさに朽ちゆく魔王城を遠くから眺め、動こうとしなかった。
「あそこに、ごしゅじんが、いたですか?」
「ああ」
「ひとりで、ずっと、いたですか?」
「まあな。当時は一緒に戦ってくれる奴もいなかったし、今となってはそれでよかったと思う」
ソロンは魔王討伐の旅に出たときのことを思い出した。
元々腕が立つだけで食べていけると思った王宮戦士としての生活は、魔物の急襲によって終わった。
滅んだ故郷をあとにして、ただ生きることだけを考えてた。
敵討ちなどという崇高な精神ですらない。ただの憂さ晴らしに近かった。
けど、魔王を倒したときには達成感なんかなかった。むしろ、今のほうがソロンの心は満たされていた。
「ごしゅじん、うれしいですか?」
「え、なんで?」
「うれしいときのかお、してます」
「……表情まで分かるようになってきたか」
ソロンは子供がいなかったが、まるで自分の子供が成長したかのように喜んだ。
「いい兆候ですね。人間の因子が定着してきた証拠です」
「せせ、セラ!」
唐突に、二人の間に知識の精霊が割って入る。
「すでにスラまるには必要因子の九十九パーセントは揃ってきました」
「この間、サイクロプスから因子を取り込むことに成功したのが大きいな。ギンドーリアの協力があっての成功だった」
「知能もかなり上がってきてます」
「フィルフレッドの教育が非常にいい刺激になってる。あれは俺でも根を上げる」
「体の動かし方も、もうほぼ人間です」
「ミカリが泳ぎ方なんかを教えてるらしい。ああ見えて息継ぎなしで五分も素潜りできると聞いたぞ」
「ええ。あとの一パーセントは目前です」
「お、じゃあ最後の因子を持つ魔物、分かったのか?」
「勇者ソロン」
「なんだ?」
「スラまる…… 彼女に『男性』を教えてあげてください」
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