第49話 竜皇獣よ、声を揃えて吼え哮ろッ!


「これはどういう状況ですかな?」


 この場へと現れたMr.に対して、わたしは端的に告げる。


「あの狼は、キャシディ伯爵が不完全な儀式で呼び出した神様のようなモノよ。伯爵本人は暴走した神様に食べられちゃったわ。

 あの狼――ロボロシェードに、まだ理性が残ってた時に本人から聞いた話だと、額の目を砕けば元の場所へ帰れるから、砕いて欲しいって」

「星を守る獣の話……よもや本当だったとは思いませんでしたな」


 言いながら、Mr.は二挺のSAIデバイスを抜き放つ。


「ですが――ベヘモス・カイザーも一緒に持ってきておいて正解だったようですぞ」


 以前に見たドラグーン・ハウリングが漆黒の銃だとしたら、ベヘモス・カイザーは艶やかな黒紫と言ったところ。

 意匠や雰囲気は似ているようだけど……。


「ベヘモス・カイザーって……ドラグーン隊と対を成す特殊部隊ベヘモスが使用してた奴じゃないか」


 それってようするに、ドラグーンと同型ないし似た性能のSAIデバイスってこと?


「気合いがあれば二挺使いできるというものですな」

「相変わらずぅ、オジサマの気合いって良く分からないわぁ……」


 ナージャンさんに同意する。

 だけど、これ以上ないくらい頼もしい助っ人だッ!


「稼げるだけ時間は稼ぎますからな。

 みなさんはまず体勢を整えるべきですぞッ!」

「はい! そうさせてもらいますッ!」


 Mr.からの呼びかけにナーディアさんうなずくと同時に、彼はロボロシェードに向かって駆けだした。


「ロボロシェード様でしたかな?

 バカな人間がバカな方法で呼び出した挙げ句、理性を失わせてしまったコトをお詫びいたしますぞッ!」


 それに対してロボロシェードが触手を振るう。

 Mr.は足を止めると、それを危なげなく躱して、改めて対峙する。


「ですが、そのままの貴方を放置しておくワケにはいかないものでしてな」


 彼は両の銃を構えて、油断なくロボロシェードを見ながら告げた。


「右の獣皇じゅうおうに十一発ッ! 左の騎竜きりゅうに十一発ッ!

 合計二十二回の咆哮を以てッ、我は貴方より人々を守る堅くて高き壁となるッ!」


 瞬間ッ、Mr.は両方の銃を地面に向けて弾鉄を引く。

 どういう原理か、その反動をもっとMr.はその場から大きく宙へと飛び上がる。


 空中でドラグーンが咆哮をあげた。

 さすがのロボロシェードもあの威力の直撃は受けたくないのか、横へ飛んで避ける。


 だけど続けてベヘモスの咆哮が響いた。

 ロボロシェードが避けた先に、肉厚な弾丸が飛んでいき――


「AOoooooN!!」


 それを、ロボロシェードは雄叫びをあげながら、触手で受け止めた。


 直撃こそしなかったものの触手が弾け飛び、ロボロシェードがよろめく。


 チャンス――ではあるんだけど、この角度からだとわたしは額を狙えない。


氷結した棺のリフリジレイト欠片たち・レインッ!」


 歯噛みしそうになったところへ、ナーディアさんの声が響いた。

 宙へと投げた水晶玉から、氷の雨が降り注ぐッ!


「レディ・ナーディア! ナイスですぞッ!」


 まだ着地できていないMr.がそう叫びながら、二挺のデバイスを同時に構える。


 双方の銃口には小さな星霊陣が展開しているのを見るに、あれはMr.のアーツだ。


融和する竜ユニゾナイト皇獣の咆哮・ブレイザーッ!!」


 それはもはや弾丸強化などではなく、螺旋を描くチカラの奔流そのものッ!


 強烈すぎる白きチカラの奔流は、漆黒の狼を飲み込んだ。

 そして、純白の火柱を引き起こす。


「精密な射撃というのは苦手でしてな。額ごと破壊させて頂いたワケですが……」


 火柱が収まり、小さなクレーターができているのを確認。

 その中心には――


「さすがは神様ですな。今ので倒れないとは手強いすぎですぞ」


 ボロボロになりながらも、しっかりと四肢で身体を支えるロボロシェードの姿があった。


「AOOoooooooooN!!」


 そのロボロシェードが遠吠えのような声を上げると、薄い緑色の光に包まれ、その傷が癒えていく。


「触手も治ったか。本気で厄介だなッ!」

「さすがに反則級じゃないかしらぁ!」


 ビリーとナージャンさんが不満の声を漏らすけど、わたしもだいたい同意する。


「やっぱり額を狙うしかないか……。

 シャリア、行けそう?」

「ここに入っている弾……残り一発なのよ。補充したいんだけど攻撃を躱した時に、ポーチ切られちゃって」

「ポーチを落としたのは見てたけど、まさか残り一発とは……」


 いやぁ、正直申し訳ない。

 完全に自分の落ち度だ。


 だけど、その思考をした時の思いつきは悪くないと思ってる。


「ビリー、口笛を吹く余裕ある?」

「そりゃあ無くはないけど、どうしたの急に?」

「貴方の実家に伝わる曲のタイトルは?」

「……盟友の唄……って、え? まさか……ッ!?」

「賭けてみる価値はあるんじゃないかな?

 カギとして不完全でも、動きくらいは止められると思うわ」


 ビリーは僅かに逡巡したあとで、うなずいた。


「了解。やってみよう」

「それと、家出の原因となった影武者についてはあとでしっかり追求します」

「……デスヨネー」


 諦めたように遠い目をするビリー。

 まぁ、ビリーが王家にすら伝わらないカギたる音楽を知っているとなると、さすがにね。気づくわ。


 すぐに顔をシリアスに戻して、ナージャンさんの横へと向かっていくビリーを見ながら、わたしは自分が笑顔になっていくのを押さえられなかった。


 泣き喚いて想い出にしようとしてた恋心だけど、別に仕舞ってしまう必要はなさそうだもの。


「行こう、マリーシルバー。

 わたしたちの未来の為の、弾鉄を引きにッ!」


 相棒に、信頼の口づけを。

 ここに残った一発で、この騒動の最後を飾る岩肌人のロクシニアン勝鬨歌・ロキシィを唄いあげてやりましょうッ!!



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