第42話 語る思いを西風-かぜ-に乗せ


 わたし、ビリー、ラタス姉妹の四人は、枯れ木の森へと向かっている。


 馬の足なら完全に日が暮れる前に森につけるという地元民ことナージャンさんとナーディアさんの言葉。

 それを信じたわたしたちは、銀行の前で待機させてた馬を駆ってキャシディタウンを後にした。


 Mr.はゴルディたちを騎士団に引き渡してから追いかけてくるらしい。


 そもそもゴルディを捕縛したあと――Mr.凶犬が持ちかけてきた相談というのは、黒触とキャシディ伯爵のことだったのよ。


 なので丁度良いから、手を貸して欲しいと頼まれた。

 こちらとしては断る理由も無かったので、ビリーもラタス姉妹も快諾。もちろんそこで司法取引的な交渉とかもあったけどね。


 だけどMr.はそういうの折り込み済みだったみたい。

 あっさりとOKをして、あとはそれぞれに枯れ木の森に向かうこととなったワケだ。


「そういえばシャリア」


 わたしが胸中で回想していると、ビリーか声を掛けてくる。


 馬上で――しかもそれなりに強めの風が吹く中ながら、はっきりとした声が聞こえるのは、ビリーの声質のせいか、あるいは何らかの声の出し方があるのか。


 ともあれ、声を掛けられたのでわたしはビリーの方へと視線を向けた。


「なんか流れで付き合ってくれてるっぽいけど、君が関わる理由って薄くない? いや川に飛び込んだ時に、決意表明は聞いたけどさ。やっぱそう思っちゃって」


 それを聞くにしても、今更なんじゃないかな?

 キャシディタウンを出る前に聞くものじゃないの、こういうのって?


 でもまぁ、ビリーなりの気遣いと最終確認ってやつかな?

 だからわたしも真面目に答える。


「それこそ川に飛び込んだ時に言ったでしょ? もう無関係なんかじゃないって。

 ビリーがアースレピオスを追いかけてるのも、ナージャンさんとナーディアさんががお金を集めてたのも、そしてわたしの手配書が異様に早く出回ったのも……全部キャシディ伯爵に繋がってたんだもの」


 そんなわたしたちが出会って一緒に逃亡生活をしたのは、ただの偶然かもしれない。

 だけど、その偶然こそが――きっと、キャシディ伯爵の想定を外れた出来事だったはずだから。


「そしてわたしは、カナリー貴族として黒触の放置はできない。

 それを利用し、何からの儀式をしようとしているキャシディ伯爵も捨ておけない」


 そう……だからわたしはみんなにしっかりと宣言する。


「だからッ、ビリーもナージャンさんもナーディアさんも、あまり気にしないでいいからね? わたしはッ、わたしの意志でッ! みんなとココにいるんだからッ!」


 早く家に帰りたいという感情そのものは無くなってない。

 だけど、これだけ関わっておいて放置して帰っちゃったら、気になって気になって夜も寝れなくなってしまうから。


「それに何よりッ! わたしは家出してきたのよ?

 家に帰るまでが家出だって言うんなら、帰るまではわたしの自由家出ッ!

 自らの美学をよしとして、その選択を掴み取った責任をしっかりと取るならず者アウトローッ! それならッ、みんなと一緒にいるコトに何一つ問題はないでしょう?」

「何もかも問題しかない気がしますけど?」


 わたしの言葉を聞いていたナーディアさんが即座にツッコミを入れてくる。

 うん。自分で思い返してみると、ツッコミどころしかない無茶苦茶な理屈な気はしてるけどさ。


「でもぉ、私としては嬉しいわぁッ! ビリーもそうでしょぉ?」


 ナージャンさんに振られて、ビリーは何とも言えない表情を浮かべてから、やがて笑顔でうなずいた。


「ああ、そうだな。

 頼もしいし……何より個人的にとても嬉しい」


 ……ちょっと、そのめっちゃ良い笑顔やめてくれないかな……。

 引きずる気は全くなかったのに、また惹かれちゃうじゃない。


 とりあえず、ちょっと話題を変えよう。

 ビリーの素敵笑顔は色々と心臓に悪そうだし。


「そうだ、ビリー。確認したいコトがあるんだけど」

「ん? 何?」

「ビリーって、王家の隠し種とか、王様の不義の子だったりする?」

「は?」


 わたしの問いに、ビリーは本当に何を言われたのか分からない様子で、変な声を上げた。


 この反応、どっちだ?


「シャリアさん、どうしてそう思ったんですか?」

「んー……単純にビリーが王家の事情に詳しかったから。

 あと、Mr.との関係も腐れ縁の錆び付きデザート保安官シャリアーブって感じでもなかったしね」

「言われてみるとぉ、確かにぃ……」


 ラタス姉妹もビリーに視線を向ける。

 そのせいで、彼はちょっと居心地悪そうに身動みじろぎをした。


「単に王侯貴族に詳しい錆び付きデザートって言うには、ちょっと苦しい場面がちょいちょいあったから、疑いたくなっちゃうのよね」


 そう、疑うポイントはいくらでもあったのよ。

 王族でなくとも、王家に関わることの多い貴族とかそういう立ち位置なのは間違いないはず。


「あー……」


 するとビリーも自分の言動や行動を思い返したのか、何やら呻いている。

 わたしの考えが正解か否か関係なく、ちょっと迂闊だった自分を呪ってる感じかなあれは。


 そして、少し困ったようにわたしを見た。


「とりあえず、王族の隠し子とかじゃないのは確かだよ。

 噂でもそれが広まるのは、ちょっとよろしくないから勘弁して欲しい」

「もちろん。事実であれ噂であれ、隠し子なんて話を広めたりはしないわ」


 そのくらいの分別はありますってば。


「まぁ機会があったら明かすから、今は脇に置いておいてくれないかな?」


 意味深な眼差しを向けてくるビリー。


「シャリアと同じ、身分を隠してならず者アウトローやってる貴族なのは間違いない……とだけは答えるからさ」


 これはアレか……。

 わたしの婚約式とか結婚式とかで、貴族の姿でわたしの前にやってきて「自分がビリーでーす☆」とかやる気か?


 んー……でも、それに何一つ問題ないな。

 少なくとも女王から国宝を取り戻す指示を受けられる程度に信用されてる人でしょ、ビリー。


 それなら婚約後のわたしの足場固めとか、そういうのに協力してくれそうだし。


「わかったわ。そういうコトで勘弁しておいてあげる」

「助かるよ」


 そんなやりとりをしているうちに、森が視認できる距離までやってきていた。


「あれが私たちの生まれ育った土地」

「枯れ木の森よぉ!」


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