第40話 その待ち人はここに来ず、その弾鉄は引かせない
「あー……真面目な話、情報収集する為だけにココに入ったからな。
まさか、まだ嬢ちゃんが中に残ってるとは思わなかった」
ゴルディにぶっちゃけられて、わたしも少し固まった。
「だから、用があるか無いかと言われると微妙なんだよな。犯人を知りたかっただけだしよぉ」
つまりは、下手人が誰か判明してから、対応を考えようとしていたってところか。
あるいは――そもそもサソリを殺した相手を捜すっていう行為自体がただの大義名分か……。
「それならそれでいいわ。
わたしはわたしで、貴方と話をしたかったしね」
「お前さんを狙った理由か?」
「ええ。賞金首になったから――なんて詰まらない理由なワケないもの」
わたしがそう言えば、ゴルディは困った顔で頭を掻いた。
もしかしたら、困った時に頭を掻くのは彼のクセなのかもしれない。
「実は俺も詳しくは聞いてねぇんだ」
「依頼人を明かす気はある?」
「だいたい検討付いてるんだろう?」
ゴルディは肩を竦めて、意外にもあっさりとその名前を口にする。
「ブッチャー・バン・キャシディ。この地の領主様だよ」
「そのキャシディ伯爵から、わたしを狙う理由は聞いてないのね?」
「一応、女王が撃った銀の弾丸に当たった女らしいからな。
王族しか知らない、何かのカギについても何か知ってるんじゃねぇかってな」
彼の言葉にわたしは眉を顰める。
正直、心当たりがない。
もしかしたら教えてもらえる予定はあるのかもしれないけれど、今はまだ何も教えてもらってないもの。
「キャシディ伯爵はそれを知って何をしたいの?」
「さぁな?
「
急に聞いたことのない単語が出来てきたんだけど……。
「詳しくは知らねぇけどな。
なんでも先史文明よりもさらに古い時代から、この星に住んでる聖なる獣ってやつらしい」
「なんで急に胡散臭くなるのかしら?」
「仕方ねぇだろ。俺だってそう思うけど実際にあのオッサンが言ってたんだからよ」
よしんば
あるいは、その為のアースレピオス……?
「それにしても、ずいぶん簡単に色んなコトを教えてくれるのね」
「まぁ俺にも色々あっからなぁ……」
頭を掻きながらそう口にするゴルディに、わたしは僅かに目を眇める。
さてどこまでが本心かしら?
まぁ、銀行の外――周辺で戦闘の気配があるのは気づいてるはずよね?
それを踏まえての本心なのか、あるいはこの場限りの口だけか。
「森を買い戻されたから慌ててたりする?」
「そこはどっちでも良いんじゃねぇかな」
あっけらかんと口にするそれは、恐らく事実だろう。
「別に他人の土地だろうが、準備さえ出来ちまえばあのオッサンにとっては問題ないだろうしな。
自分の土地にした方が邪魔が入りづらくなるってだけだろ」
「ふーん……」
会話の中、ゴルディが頭を掻く頻度が増えてきている。
何に困っているんだか……ってまぁ、だいたい予想は付いてるけどね。
「ところで嬢ちゃん、何を待っているんだ?」
「わたしは別に何も待ってないけど?」
そう。わたしは何も待っていない。
強いて言えば、結果を待ってるといったところかな。
「むしろ、待っているのは貴方でしょう? Mr.ゴルディ?」
「そういうワケでもないんだがな……」
頭を掻き、視線をわたしから逸らしながら彼は苦笑する。
その態度じゃあ答えを言っているようなモノだ。
「
実際は何かしらの難癖を付けてこの銀行そのものを襲撃する予定だったんじゃないの?」
ゴルディは頭を掻いていた手を止めてこちらを見る。
これまでの態度から一変、凄みのある眼光だ。
だけど、この程度で怯むようなわたしじゃない。
「だからこそ、ラタス姉妹の支払いが成功しようが失敗しようがどっちでも良いのよね。
だって、貴方たちが銀行強盗をしたせいで、お金だけでなく書類すらうやむやになっちゃうんだもの。
そうなればラタス姉妹が何を言おうと、証拠がないとか、支払いの事実がないとか言って無理矢理土地を奪い取れる」
でも、あいにくとこの銀行を守る理由が生まれちゃったしね。
そもそもからして、ここまでお金を持ってきたラタス姉妹のことを思えば、こいつの思惑通りにことを進めてやる気にはなれない。
「ついでにわたしを殺せれば、べらべら喋った内容の口止めもできるし、賞金も手にはいるし一発の弾丸で何羽もの鳥を仕止められる美味しい状況だなんて考えてたのかしら?」
「テメェ……」
獣のうなり声を思わせる声色で、ゴルディがうめく。
「部下たちが生きていたら教えてあげた方がいいわ。
気配の消し方が雑すぎるって。一般人相手ならそれでいいけど、それなりに戦える手合い相手では不足がすぎる」
わたしがそう告げた時、銀行の入り口が開き、とっぽい感じのゴロツキが入ってきた。
それを見、ゴルディはニヤリと笑う。
「だが――入ってきたのは俺の部下のようだぞ?」
「本当にそう思ってるの?」
「なに?」
こちらの言葉を、ゴルディが訝しんだ時――
「つ、強ぇ……」
入り口で立ち尽くしていた男はそれだけ口にして、グラリと傾いた。
ドサリと音を立てて倒れた男を跨いで、四人が銀行へと入ってくる。
「外の連中は粗方片づけた」
「無理して不殺に付き合って頂き感謝ですぞ」
「まぁ、殺さず倒す余裕がある相手ばっかりだったからぁ」
「10ガバロのお礼ですよ、Mr.」
現れたのは、ビリー、Mr.凶犬、ナージャンさん、ナーディアさん。
わたしの目配せの意味に気づいたビリーが、三人に声をかけ一緒に気配を消して裏口から外へ出て行った。
そして、銀行を囲むゴールドスピーカー一家のゴロツキたちを倒して回ったというワケだ。
「クソッタレッ!!」
追いつめられたのを悟ったんだろう。
ゴルディは毒づきながらも鋭い動きで、腰元のナタに手を伸ばし――
「甘いッ!!」
だけどそれよりも早く、わたしのマリーシルバーが
二連射で狙うはゴルディの両肩。
「うぐっ……ッ!?」
わたしの早撃ちにあわせてビリーも動き出している。
彼は剣による早撃ちで、ナタを納めたホルスターの留め具を切り落とす。
肩を撃たれ、頼みのナタは床に落ちた。
そこへすかさずMr.が踏み込んで行き、ボディに一発。その一撃で身体を曲げたゴルディの頭を掴むとそのまま地面に叩きつけた。
「あ……が……」
「大物の最後にしてはあっけなかったですな」
殺しはしてないけれど、ここから逃げ出すのは難しいだろう。
「そもそもぉ、Mr.たち三人が強すぎるだけな気がするのよねぇ……」
「姉さん、しーです。思っててもここで口にすると空気が読めない人になりますよ」
ナタを回収しながらのラタス姉妹はのんびりとやりとりしている。
二人だって充分強いと思うのだけれど。
そんな姉妹のやりとりはさておくとして――
わたしは地面に押しつけられているゴルディの額にシルバーマリーの銃口を突きつけた。
「良い格好ね、Mr.ゴルディ? せっかくだもの。
死ぬ前に吐けるだけの情報は吐いてくれないかしら?」
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