第26話 お別れは新たな始まりと言うけれど
駅というのは多くが町の外から少し離れた場所にあるのが当たり前ながら、この新ハニーランドは珍しく町の中に駅がある。
これは新ハニーランドが、線路が設置されたあとで作られた町だかららしい。そんな新ハニーランド駅の外周北回り線のホームに止まる列車に、ビリーたちは乗車予定だ。
出発までまだ時間があるので、わたしたちは二等車両の中央乗車口のそばで少しお喋りをしている。
本当は一等車両のチケットを買ったらしいんだけど、追っ手が来たときに乗車車両を誤魔化すのも兼ねてここから乗るんだって。
「ナージャンさん、ナーディアさん。昨晩はありがとうございました」
「お礼なんていいわよぉ。あたしも楽しかったしねぇ」
「姉さんの言うとおりです。私も楽しかったですから」
ニコニコと答えてくれるラタス姉妹に、わたしも笑みを浮かべてうなずいた。
それを見ていたビリーはわざとらしく口を尖らせる。
「女子会かー……いいなー……俺も参加したかったなー」
「女子会だからビリーは無理でぇす」
そんなビリーに、ナージャンさんはケラケラと笑って切り捨てた。
「くッ、何故俺は女じゃなかったんだ……ッ!」
「え? ビリー……そんなに参加したかったんですか?」
拳を握りしめて悔しがるビリーにナーディアさんは若干引き気味だ。
だけどまぁ、ビリーとしてはふざけていただけだったみたいだけど。
「まぁ、冗談はさておき……」
悔しがるフリをやめて笑おうとしたビリーが動きを止める。
何かを見て眉を顰めるのを見たわたしたちは、即座に意識のスイッチを切り替えた。
緊張が走る中、ビリーは突如わたしへ謝罪を口する。
「シャリア、ごめん」
「え?」
その言葉の意味を聞こうとしたけど、それより速くビリーはわたしの口元を押さえ、列車の中へと引きずり込む。
ラタス姉妹も何も言わずに、それを追いかけた。
「どうしたのぉ?」
「おっちゃんがいた」
ビリーがそう告げてから、わたしの口元から手を離した。
わたしたちの間に、緊張感が満ちる。
Mr.
さすがに、遭遇したくな相手ね……。
「追いつかれてしまいましたか」
「よりもよってここでだ。シャリアの手配はまだ解けてない」
「そっか。ビリーたちと別れたあとで遭遇しちゃうと、一人であれを相手しないといけないのか……」
あー……それはちょっと遠慮したい。
「シャリアちゃんは列車の中でMr.をやりすごしてぇ……ギリギリで列車から出るぅ?」
「出来るコトといえばそれしかない……。
だけど、それでこの場をやり過ごせてもシャリアの乗る列車が出発するまでの残り三十分間、かくれんぼが続くぞ」
Mr.とかくれんぼかぁ……。
それもゾッとしないけど……でも、ベル領へと帰るなら乗り越えないといけないよね。うん。
「三十分くらいなら大丈夫よ。
心配してくれるのは嬉しいけど、そっちだって目的があるんでしょ?」
元々ビリーが付き合ってくれるのは旧ハニーランドまでの予定だった。それが成り行きで新ハニーランドになってしまっただけに過ぎない。
ここから一人なのは、予定通り。
「この列車を使ったかくれんぼが、みんなとの最後の共同作戦ってコトで。よろしくね」
そう告げてウィンクをした瞬間だ――。
「きゃぁぁぁぁぁぁッ!!」
列車の外。ホームから悲鳴が響きわたった。
「わたし何もしてないわよッ!」
「見てたからわかるッ!」
あまりのタイミングの良さに思わず口にした言葉に、ビリーのツッコミが飛んでくる。
「オレの邪魔をするんじゃねぇッ!! 殺すぞッ!!」
外から聞こえてくるのは物騒な声。
わたしたちは列車のドアからそーっと声のした方をのぞき込む。
「左腕が義手のナイフ使い……」
ビリーが口にしたような男が、ナイフを振り回し叫んでいた。
彼の足下には血を流した男性が転がっている。
「わたしのようななんちゃって賞金首じゃなくて、本物の奴が現れちゃったわね……」
その男に、わたしは心当たりがある。
ハーディン・ジョズリー。
一般人より殺人のハードルが低い男とまで言われる大量殺人者。
わたしと違って写真のような精密な絵が使われた手配書が出回っている男。
こちらがハーディンの様子を伺っていると、横から声が掛かる。
「ぬ? お嬢さん方ッ!」
「げ。Mr.ッ!」
ナージャンさんのうめき声はわたしたち全員の代弁だ。
だけど、このタイミングでなら、問題はないかもしれない。
むしろ――
「Mr.……確かマイティだったかしら」
「レディ・シャーリィにそちらを覚えて頂けるのは光栄ですな」
――彼の正義感は信じてみるのも手だと思う。
「Mr.マイティは、
瞬間、彼の表情が変わった。
あるいは、ここからハーディンを捕らえる手段として、わたしたちに声を掛けたのかもしれない。
「難しいですな。レディ・シャーリィに二発ほど弾丸を撃って頂きたいところです」
即座に銃を抜き、
「間隔は? 同時? 少しズラす?」
「一秒開けて頂きたい。先に二の腕――義腕の付け根。次に右手のナイフですな」
「毒物には気を付けて」
「心得ておりますぞ」
「無辜の民を守るという貴方の意志、信じます」
「近い将来、我が上司になりうる方の言葉なれば」
略式の敬礼を見せてくる彼に、わたしはどこか腑に落ちた感覚になった。
ああ――そうか。
Mr.マイティ・ジョンは、分かっていてわたしのことを追いかけてきていたんだ、と。
本気で捕まえるというよりも、余計な輩にこの首を取られないよう守る為に。
「もしかしてもっと前に追いついてたりした?」
例えば、わたしたちがダガービーと戦っている時とか。
思わず呟いた言葉に、Mr.マイティはヘタクソなウィンクをしてみせる。
……まったくもう。
あの時点でどうやって追いついてきたのやら……。
でも、まぁ――今はそんなことはどうでもいいか。
「合図はしないわ。撃ったら行って」
「御意」
わたしは列車のドアから半身だけ外に出して、マリーシルバーを構えて叫ぶ。
「ハーディン・ジョズリーッ!!」
今まさに足下の男を殺さんとナイフを構えていたハーディンがこちらを視る。
「そこに居たかッ! オレが探していた女ァッ!!」
え? 彼の狙いってばわたしッ!?」
驚きはしたけど敢えて答えず、そのままわたしは弾鉄を引く。
パンというマリーシルバーの
即座にわたしは構え直し、先の歌い終わりからキッカリ一秒の休符を見てから、マリーシルバーに次の歌詞を歌わせた。
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