序章:天から降ってきた葉

「どうしたの」

私が校舎の誰もいない場所で泣いていた時に「彼」は現れた。

背の高い、クールな雰囲気を放った彼は、私をじっと見つめていた。

咄嗟に顔を背け、その場から離れようとした。

でも足が動かない。心がこの場から離れることを拒否している。

「光羽」

彼は、私を壁際へ誘導した。誰もいない場所で男子2人っきりという状況なのに、緊張や不安は一切なかった。

「何かあったの?」

彼は優しい声で尋ねてくるが、首を縦に振ることしか出来ない。

「そっか」

彼は私が話すのを待っているらしく、それ以上は何も聞いてこなかった。

彼ー天葉は、笑人と仲の良かった男子だ。

笑人とは中学校で知り合ったが、天葉とは小学校から同じ。でも1回しか同じクラスになった事が無い。ずっと縁がなかった。

でも今日は、その縁が繋がりそうな予感がした。

「ごめんね…」私はとりあえず謝った。

「いや、大丈夫」

「…泣いたのは天葉に関係のないことだから、言わなくてもいい?」

「俺にわざわざ聞くことじゃない。光羽が決めること」

「うん、そうだね」

私は妙にオドオドしてしまった。天葉は他の人とは違う雰囲気を放っている。何となく迫力というか、オーラみたいなのがある。

「なんでこんなところに来たの?」

私は率直に思ったことを告げた。天葉は少し驚いたような顔をした。

「え、聞いちゃダメだった?」

「いや…、別に気分でだけど」

気分?こんな場所に気分で訪れる人を初めて見た。

「そうなんだ」深入りしない方が良さそうだ。当たり障りなく返す。

「学校にいるよりも帰った方がいいんじゃない?」

そうだ、もう放課後だった。あとは帰るだけなのに、すっかり忘れていた。

「うん。ありがとう」

私はその場を後にした。背後から視線を感じたが、気づかないフリをした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る