酸素-12
翌朝、車内の後部座席で目を覚ました新三。
「あれ、ここは?」
「パトカーの中ですよ」誠はそう答えながらスポーツドリンクを新三に渡す。
「Thanks」新三は礼を言いながら受け取り、早速飲み始める。
ごきゅごきゅと音を立てながらあっという間に飲み干す。
「どう? 動きあった?」
「いえ、特には」
「そうか・・・・・・」新三は再び後部座席に寝転がる。
「それで、昨日の成果はどうでしたか?」
「どうって、愛子ちゃんから聞いてないの?」
「ホルモン焼きを食べてここに来たとだけしか」
「ったく、しょうがないな。はい、これ」
新三はおやっさんから貰った鑑識結果の書かれた紙を渡す。
「これで酸部がオキシジェン星人だという事が判明しましたね」誠はさっと目を通した上で発言する。
「そうだな」どこか不満げな新三に「何か、ありましたか?」と誠は質問する。
「なんか、自分の犯行を誇張している気がしてな」
「今までの犯行は違うんですか?」
「流石にそこまでは分からないけど。妙な自信というか、何というか」
「気になる事があると?」その一言に頷く新三。
そうしていると酸部がマンションから出て来た。
「あ、出てきました」誠はエンジンを掛けて尾行の準備を始める。
酸部はタクシーを呼んでいたらしく、マンションを出たタイミングで来たタクシーに乗り込みどこかへ走り出した。
「追いかけます」誠にそう言われ新三がシートベルトを締めると覆面パトカーは走り出した。
「何処に向かうんでしょうか?」
「さぁね」
誠の疑問に素っ気なく答える新三を乗せた覆面パトカーはお台場方面へと向かう。
タクシーはお台場海浜公園前に停車し、酸部を降ろす。
酸部はそのままお台場海浜公園に入っていく。
「なぁ、まさかだとは思うけどあいつここで大勢の人間を殺るんじゃない?」
「ま、まさか」顔を引きつらせる誠は大慌てで駐車場を探す。
そして、先に新三が車を降り、酸部を尾行し始める。
公園内を一人闊歩する酸部の真後ろを歩いていく新三。
その距離なんと0m。
「何です? 私に用ですか?」新三の方を振り向くと同時に話し掛ける。
「はい。オキシジェン星人さんに用です」
「オキシジェン星人?」
「またまたぁ~」
「あなた、頭おかしいんじゃないですか?」
「そうすね。でも、人殺しをするようなアタオカはないですよ」
その一言に眉をピクリと動かす酸部に話し続ける新三。
「もう率直に言いましょう。あんたが一連の酸欠事件の犯人だ」
「何、訳の分からないこと言っているんだ? あんた」
「それだったら、警察でも呼べばいいじゃん。変な奴に絡まれてますって」
「ああ、そうさせて貰う」
酸部はスマホを出して警察に通報しようと手を動かし始めるのだが、何かに気が付いたのか途中で止めるのだった。
「あれ、どうしましたか?」
「な、何でもない」
「変ですね。何故、警察を呼ぶのを止めるんでしょうか? もしかして、相手にしてもらえないと思ったんですか? でしたら、こちらを」
新三は愛子が亜宇を尾行している際に、撮影した写真を見せる。
愛子が撮影するカメラに目線を向け笑顔で写っている酸部の写真であった。勿論、隣には亜宇が写っている。
「先に言っておきますけど、あなたの隣に写っている女性は関係ありませんよ。それでこの写真から察するにオキシジェン星人さんは尾行されているのに気づいていますよね?」
「そんな事はない。尾行にすら気づいていなかった」
「それはどうすかね。ほら」
新三は次々とカメラ目線の写真を出して見せていく。
その度に酸部の顔が青ざめていくのだった。
「悪趣味だな。こんなの偶々、撮れただけだろ」
「そう思うんだったら、早く警察に通報すれば良いじゃないですか。何か不都合なことでも?」
一向に手を動かそうとしない酸部に厭味ったらしく言う新三。
「そ、それは・・・・・・・」
「それはぁ~」酸部の言葉を復唱する新三。
すると酸部は深く息を吸い始めた。
「ま、まずい!」
新は慌てて止めようとするが、時すでに遅しといった所で酸部は息を吐き出す段階までに来ていた。
周囲には子供連れの家族やカップル、ランニング中の人間などがひしめき合っている。
こんな所で深呼吸されたら何人の人間が死ぬのか。そんな事はさせまいと新三は酸部に掴みかかろうとするが物凄い力で首を絞められ身動き取れなくなる。
そして、酸部の口が息を吐き出す瞬間に差し掛かった時、「小永さんを離せ! コノヤロォォォォ!!!」その怒号と共に愛子の飛び蹴りが酸部に直撃した。
息を吐き出す間もない酸部は華麗に吹っ飛び地面に倒れ込むと同時に、誠が酸部を確保する。
「離せっ!! 離せぇぇぇぇぇ!!!」ジタバタと暴れ回る酸部の手に「公務執行妨害の容疑で逮捕する」と当たり前の文言で酸部を逮捕する。
「大丈夫ですか? 小永さん」
愛子は新三に近づきながら状態を確認する。
「ああ、大丈夫。助かったよ」
「全く、もう少し遅かったら大勢死んでましたよ」
「面目ない。にしても、愛子ちゃんここが分かったね」
「小永さんのスマホにGPSを仕込んでいるので」
「えっ! マジ!?」
「マジです」
そう会話する新三と愛子は誠に連行される酸部を見送るのだった。
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