開始-8

「さ、行きますか!!」

 新三はそう言うと西岡弁護士の事務所が入っているビルに入る。それに続く愛子と誠。

 西岡弁護士の事務所はビルを入ってすぐの二階にあった。

「失礼しまぁ~す」

 新三がドアをノックもせずに開けて中に入ると、西岡は姿見の前でカードデッキをかざして変身ポーズを取っていた。

「あ、あのぉ~」愛子が声をかけると、驚きのあまり姿見に抱きつく西岡。

「い、依頼ですか?」

「いえ、あの・・・・・・・」

 愛子が振り返ると誠と新三が姿を現す。

「この前の刑事さんと・・・・・・あなた達は?」新三と愛子の素性が分からないので説明を求める。

「申し遅れました。私、Star of Light探偵社の深見 愛子と申します」そう言って、西岡に名刺を渡した。

「これはご丁寧にどうも。それで、そちらの方は?」不思議そうに新三を見る西岡。

「あ、あんたに渡す名刺なんてないんだからねっ!!!」

 突然、ツンを発動させる新三に戸惑っていると、愛子が「良いから渡す!!」という言葉と共に新三の後頭部を叩く。

「はい」しょんぼりしながら名刺を渡す新三は自己紹介する。

「パワハラofセクハラ探偵社の小永 新三です」

「違うでしょ!」と愛子に𠮟責される。

 取り敢えず、自己紹介を終えたので来訪した目的へと話は変わった。

「それで私に聞きたいという事は?」

「実は御社が提携している探偵社もしくは興信所について知りたいんです」そう話し出した新三に西岡は眉を少し上げる。

 この探偵はそんな事を聞く為に刑事を連れてきたのかと思いながら。

「提携ですか? 何故、またそんな事を」

「営業ですよ。営業」

「はぁ」この男、一体何を考えているのか? 西岡は新三が何を考えているのか読めす出来うる考えを頭の中で張り巡らせる。

「もし、良かったら提携先をウチに変えませんか? 今ならお安くしておきます」

「ちょっと、小永さん。私達、事件について聞きに来たんじゃないんですか?」

 西岡に聞かれないよう耳打ちする愛子を無視し、新三は営業を続ける。

「是非、参考比較のためにもお教え願いでしょうか?」

「分かりました。ウチが提携しているのはヘラー興信所です」

「大手ですね。契約金は幾らでしょうか?」

「契約金というか一件に付きでの支払いになっています」

「成程。ウチは定期の月額制なので前金一か月分納めて頂くだけで使い放題です」

「でもそんなにしょっちゅう依頼を出さないので・・・・・・・・」

「その点はご安心ください。一度もご利用されなかった月の翌月は調査サービスのグレードを一段階引き上げたものを追加料金なしでご提供させて頂きます」

「そうですか」少し心が動き始めている西岡を見て愛子は新三の隠れた才能の一部を垣間見えたと思う。

「やはり主な依頼は不倫調査でしょうか?」

「そうですね。それが大半です」

「ウチの調査で最も得意とするのが不倫調査ですから。ね、愛子ちゃん」

「は、はい」いきなり話を振られたので思わずYesと取れる返事をする。

「それだったら、前向きに検討しようかな」

「ありがとうございます。ほら、愛子ちゃんも」

「ありがとうございます」愛子は頭を下げる。

「では、私達はこれで失礼します。また後日、資料をお持ちして具体的な説明にあがらせてもらいます」

「分かりました。宜しくお願いします」

 新三は席を立ちその場を後にしようとする。愛子と誠はこんな事の為に付き合わされたのかとうんざりしながら後をついて行く。

 そして、新三がドアの前に立った瞬間、西岡の方に振り返ると次のように言った。

「あの真希さんがヘラー興信所さんに依頼した内容は何でしょうか?」

「それは、身辺調査だと聞きましたが。あっ」自分の口元を手で抑えた西岡は失言してしまったといった顔をする。

「そうですか。そうですか。身辺調査ですか。安心してください。漏らしませんよ!」

 ニヤッと笑みを西岡に見せた新三は事務所を出て行った。

「どういうつもりですか? ここへ何しに来たんですか?」ビルを出るや否や誠は新三に真意を確かめる。

「何って、真希が何を依頼したのか聞きにきた。ただ、それだけ」

「それだけって」付き合わされたこっちの身にもなれと言わんばかりの顔をする。

「もしかして、興信所に聞いても守秘義務でまともな回答を得らないからここへ来た。そういう所ですよ。巽川さん」愛子は新三の考えを伝えると「ご名答、流石はこの無能なおじさんに付き合ってくれる新入社員だ」と新三は嬉しそうに言う。

「無能なんて思っていませんよ!!」

「うっそだぁ~」

 愛子が心の内に秘めていた事を見透かしていたのか新三は一人先にヘラー興信所に向かって歩き出す。

 ヘラー興信所は西岡の事務所から徒歩5分程の離れた距離にあった。

 ここでも新三は「西武署の大門だ!! 大人しく、真希 芳人について聞かせろっ!!」と適当な事を言い、依頼人の真希について聞きこみを行う事になった。

 しかし、守秘義務で大した成果は得られなかった。が、誠の同僚から吉報がもたらされた。

 真希が脅迫していたという同業他社の社員を発見したと。

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