2話 20XX/12/22 清雅市最終決戦_2 英雄覚醒

 今日は信じ難い光景を何度も目にした。1つ目は清雅財閥の社長が作った秘密兵器。コイツが何をどうして動いているのかは理解出来んが、そいつは周囲の無機物を侵食しながら竜を作り出す。それだけでも出鱈目なのに、ソイツは宇宙からやって来た連中と互角以上に戦い始めた。しかし宇宙人共も相当に強い。だから質よりも量って感じで瞬く間にその数を爆発的に増やし、圧倒的な数で敵を押しつぶそうとした。


 が、ソイツに待ったをかけたのが2つ目の信じ難い光景。伊佐凪竜一と謎の派手な銀髪美人のねーちゃん。この二人は何をどうしているのか質を超える量をで竜の群れを叩き潰していた……のだが、どうやらそれは命を削りながらやっていたらしい。程なく二人は動かなくなった。死んだんだ。遠くから生命反応がどうだかって言葉が聞こえるから多分そうなんだろう。


 しかし、しかしだ。それなら今、俺の目の前で起きているこの出来事は何だ?あの二人の亡骸を中心に白い粒子状の何かが渦を巻き始めた。ソレは空が晴れた時に見た景色と同じだが、あの時とは桁違いの範囲だ。もう何が何だかさっぱりわからず、下の様子を窺ってみれば誰も彼もが唖然とした様子で幻想的な光景を見ている。

 

「少しだけ理解できたよ。自分よりも大切なツクヨミに理解されたいのにしてもらえない、理解したいのに出来なくてどすればいいのかわからなくなってるのか」

 

「もう自分では止められない、誰かに止めてもらわなければ止まれないくらいに弱い。己を強いと必死で偽る、それが君と言う人なのだな。ならば・・・・・・」

 

 またしても突然の出来事だった。男と女の声が聞こえてきた。男の方はちょっと前に話した時と同じ声だから伊佐凪竜一で間違いない。となれば、女の声はあの銀髪美人か。で、内容から察すればこの二人は清雅源蔵の心の内を理解して、その上で拒絶するつもりだ。確かにそうするしかないだろうな。自分以外を認めない人間を組織の中に放り込めば簡単に瓦解する。理解したからこそ認めない、ソイツがお前等の答えか。

 

「俺達が止める!!」

 

「私達が止める!!」

 

「バカなバカなバカなバカなバカなバカなバカなバカなバカなバカなバカなバカなバカなバカなバカな・・・・・・」

 

「認めん認めん認めん認めん認めん認めん認めん認めん認めん認めん認めん認めん認めん・・・・・・認めないッ!!」

 

「ツクヨミに勝利をッ!!」

 

「彼女に全てを捧げるッ!!」

 

「「「「この私が!!私こそが!!勝者の筈だッ!!」」」」


 正直に言えば、伊佐凪竜一達の出した答えと清雅源蔵の何方が正しいかなんて俺には分からない。何をどうしてこの戦いが起きたのかはおおよそ理解できたが、だからと言って清雅源蔵あのおとこが正しいとも思えなかった。


 戦いを利用して自分の願いを叶える為に誰がどれだけ死のうが構わないなんてのは誰だって認めたくない。が、だからと言って伊佐凪竜一とあの美人のねーちゃんがこの戦いを止めた後の世界がどうなるかも分からない。


 時と場合によれば、清雅源蔵が勝った後よりも悲惨な未来が訪れるかもしれない。結局のところ決断を迫られる俺達には情報が圧倒的に不足している。五里霧中、闇の中を手探りで歩く感じだ。分からない事は怖い。だから人は変化を嫌い安定を求める。それは安定という鎖に強く縛られる程により顕著に表れ、世界を停滞させる。なのに、アイツ等は何の躊躇いもなく次の一歩を踏み込んだ。


 清雅源蔵を討伐し、この戦いを終わらせる。たったその為だけにあの二人は命を懸ける。なら……だったら、俺の命もアンタ達に賭ける。アイツを止めてくれ。アレは傍目に見ても完全に暴走している。自分以外を認めず、自分の目的以外が見えず、だから誰がどうなろうが構わないって思考に憑りつかれている。ソレは且つての清雅源蔵の姿とは似ても似つかない。且つて俺達が憧れ、同時に恐怖した清雅源蔵という男は自分の願いの為に全てを投げ捨て化け物になった。


 アレは……人の世に仇名す悪魔だ。だから、もし伊佐凪竜一とあの美人のねーちゃんが負けたら、奴はあの竜を躊躇いなく世界に向けて放つ。もうアイツには俺達人間が同類だと思えていないだろうから。散々に好き放題生きた俺達を人間とは見做してくれないから。俺は携帯を握りしめながら全てを映像に収め続けた。もう興味本位なんて軽薄な考えは吹っ飛んでた、これは義務だ。この戦いを間近で目撃しちまった俺の義務だ。


 その清雅源蔵の兵器に動きがあった。ソレまで宙に浮いていたまん丸の兵器が地面へ落下すると、ソレは周辺のありとあらゆるものを飲み込み取り込んだ。馬鹿げている……そう思ったが、しかし目の前の光景は現実。ソレは、映像をその青く不気味に光る兵器の周辺を拡大してみれば、ソレ等は小さな小さな粒の集まりだと分かった。


 どんな原理で作られ、動いているのかは分からない。だがそれ等は…あぁ、まるで意志や自我があるかのように動いていやがる。で、そいつは途轍もなくデカい竜を作る為に周辺の物質を取り込み始めた。しかも無機物だけじゃない。出鱈目だ。俺は…俺は見ちまった。地上で戦っていた宇宙から来た連中の何人かが青い何かにほんのちょっぴりだけ触れたその瞬間、その場所から青い粒が身体をうねる様に這い回りながら一瞬で覆いつくし、分解して、川の一部として取り込んじまった瞬間を俺は見ちまった。アレは、人も物も区別なく取り込んじまう。


 震えていた。恐怖だ。海外の映画で見たパニックホラー映画の化け物の挙動によく似ているが、だが目の前で起きたソレは映画の世界が子供騙しに見える程の速度だった。まさか現実が人間様の想像力を超える日が来るなんて考えもしなかった。直後、オレが居るビルがガクンと揺れた。やべぇ。そう思った俺は一目散に階段を駆け上がった。取り込まれる。下手すりゃ俺もこの鉄くず諸共にあの青い化け物の一部になっちまう。


 俺は急いでビルを駆け上がり屋上へと辿り着いて、ソコから眼下の様子を眺めた。絶望的だったよ。青い兵器はさながら川みたいに成長、周辺の全てを手当たり次第に飲み込みながら一点へと集まって……そしてソコから馬鹿デケェ龍が姿を見せた。アレは、日本の神話に登場する八つの頭を持つヤマタノオロチだ。俺は、その場にへたり込んだよ。もう駄目だ。地球にこんなバカげた兵器があるなんて思いもしなかったし、ソレが初めて見る宇宙人さえ圧倒しているなんて想像出来るはずがない。


 だが、あの二人は諦めていなかった。伊佐凪竜一と、名前も知らない銀髪の美人。その二人の目は、人の心を絶望に染める青い輝きに飲み込まれていなかった。

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