第0章 ある刑事の記録映像
1話 ある刑事の記録映像
20XX/12/22の出来事を記す。もしかしたら死んじまうかもしれないからな。現に今、俺の目の前で起きていることは常識を完全に逸脱していて、この気持ちを端的に表現する言葉を思いつかない位には現実離れしていた。少なくとも驚いたなんて陳腐な言葉では説明できないのは確かだ。
事の経緯は伊佐凪竜一を清雅第三ビルに送った直後の話だ。せっかくドンパチやってる清雅市中央区に居て、そして俺は金に困っている。ならばすることは1つ、実況中継しかあるめぇよ。そう考えた俺は手近なビルに潜り込んで、携帯のカメラを望遠モードにしつつ戦闘の様子を映像に収め始めたわけだ。
きっと高く売れるぞ、とその時はそんな風に皮算用していたのだが、コレが実に甘かった。いや、映像自体は途轍もなく良かったのだが、まさか清雅の親玉があんな化け物を呼び出すとは思わなかった。いや……アレは、アレはもう化け物とかいうレベルじゃない。もっと悍ましい、言葉に出来ない、形容しがたい、化け物という呼び名すら生温い何かだ。
清雅源蔵を中心に集まった濃く青い光は、血に塗れたその男を巻き込みながら上空へと舞い上がり、そして大きな球体へと姿を変えた。そうしたら次にはその球体からまるで真っ青な雨粒が地面に向けて落ちて、その次に落ちた周辺が不規則に隆起したかと思えば歪な竜の群れが次々に生まれた。
ソイツ等は宇宙から来たヤツを手当たり次第に攻撃、辺りを血で染めた。今更ながら異星人の血って
事実、地球よりも遥かに文明が進んだ宇宙人が苦戦しているんだ。いや、負けている訳じゃない。ただ、単独で相手をしている割合は少ない。誰もが疲弊しているのか、それとも……そう考えていたころだった。俺はまたもや信じ難い光景を目にした。宇宙人があれ程苦戦しているあの竜の群れを単独で薙ぎ倒す女を見た。アレは……そうだ、あの銀色の髪は見覚えがある。アイツは、伊佐凪竜一と行動を共にしていたバカ強い女だ。
だがその強さは俺と戦った時の比じゃない……というか寧ろ他の宇宙人よりも桁違いに強い。何だアイツは?地球人か?それとも宇宙人か?何れにしても、大きかろうが小さかろうが竜を一撃で破壊消滅させるその女の姿は俺の視線に焼き付いた。いや、容姿に目が眩んだわけじゃないぞ。いやしかし、あの時はバイザーに隠れていて分からなかったが、素顔があんなに美人だとは思いもしなかった。伊佐凪竜一の野郎、何処で知り合ったんだ?
と、そこでふとその当人はどこにいるんだって疑問が出た。で、よくよく調べてみたら俺が送ってやった第三ビルに居た。が、その光景はまた奇妙だった。アイツの周囲にとんでもない量の光が集まっている。何だアレは?そもそもアイツはあんな力を持っていたのか?ほんのちょっと見ない内に何があったんだ。が……あの目だ。アイツの目は俺と会った時とちっとも変っていない。あの真っすぐな目はやはりテロなんて無茶なことをする目じゃなかった。なら、お前はきっと誰かを助ける為にそんな訳の分からない事をしているんだろうな。
その後も戦いをジッと携帯に収めていたが、結局のところ清雅源蔵に対抗できているのはあの二人だけだと分かった。謎の銀髪の美人と伊佐凪竜一。この二人は滅茶苦茶な勢いで量産される竜を全く寄せ付けない。女の方は刀を持てば一刀両断、銃を持てば……何をどうしているのか分からないが竜をどこまでも追いかけ撃墜する。
伊佐凪竜一はもっと無茶苦茶だ。アイツ、身長の何倍もある竜を素手で殴り飛ばしてやがる。だけどどういうことだ?なんで清雅社員共とは違って青い兵器を使っていないんだ?ソレに……もしかしたら清雅はアイツみたいな特殊な能力を持ったヤツを集めていたのかも知れない。だとするならばとんだ伏兵を招き入れた事になるな。とにもかくにも、あの二人はそうやって群がる竜を薙ぎ倒し続けていたが、だがその動きが段々と遅くなっていった。
動きはぎこちなくなり、攻撃の威力はガタ落ち。何が起こったと携帯のカメラで顔を拡大してみれば、漸く俺にも何が起きているか理解出来た。必死で痛みに耐えていた。あの二人、命削ってやがった。何やってんだ、俺は。俺は、今日この時ほど自分を情けないと感じたことは無い。あいつ等は命捨てて俺達から身を守っているのに、俺は端金目当てに盗撮みたいなみっともない真似をしているんだ。
だが……だけど、じゃあ俺に何が出来るんだって考えたら何も浮かばない。無力だ。力も権力も無い俺には……いや、違うな。俺は、俺も覚悟を決めた。この映像を命懸けで残す。ココで起きた事を全部残して、後に続く人間に教えてやるって仕事がある。記録を残して、教えてやるんだ。"あの二人がいたからお前達がいるんだって"な。
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