第4話
「魔族の長様も限界でしたようね」
倒れた魔族の長のそばに跪き、首筋に手をそわせながら王を見上げる。先ほどまで静かに、亡くなった侍女のそばに付き従っていた第十三王女がそこに居た。彼女はすっと立ち、王を真っ直ぐに見つめる。
「そなた……、どういうことだ?」
「貴方の心臓を捧げても、精霊族を呼び出すことはできないということです」
「なっ……」
怪訝そうに王女を見ていた王太子が絶句した王を背に庇い、彼女に尋ねる。
「どうして、お前に分かるんだ?」
「こういうことです」
王女が手をあげると、彼女の周囲が一瞬煌く。光に目を瞑った王太子がもう一度目を開けると、そこには大陸の奥地にいるはずの精霊族が第十三王女を囲むようにして存在していた。
「精霊族……」
驚きに瞬きすら忘れた顔の王太子であったが、徐々に目の前の状況が理解できたのであろう、喜悦の色が浮かぶ。しかし、王太子が口を開こうとする前に第十三王女が言葉を発した。
「まさか、わたしが王陛下の命と貴方たちを助けるために精霊族を呼び出したとか言わないでしょうね」
図星であった王太子は言葉を詰まらせる。王女は彼を瞥見するとおもむろに手を叩く。
パンッ、パンッと乾いた音が静かな大広間に響いた。
「うっ……」
「う……ぐはっ……」
王の前で王太子がその場に血を吐きながら倒れ伏す。呆けた顔で彼らを見ていた第五王女も血を吐き苦しみ出した。
「お、おい。しっかりしろ」
目まぐるしく変わる状況に放心していた王が、事の重大さに気づき目の前で倒れた王太子を介抱し始める。
「無駄よ。彼らはもう死んでるわ」
「……そなたがこの惨事を引き起こした兇徒か。いったい彼らに何をしたんだ」
王太子の脈を触り、すでに事切れていることを確認した王は憎々しげに第十三王女を睨みつけ、問う。
精霊に囲まれた王女は王の射殺さんばかりの視線にも意に介さず、彼の問いを無視し逆に問い返す。
「わたしの母のことを覚えていませんか?」
「後宮に何十といる女のことをいちいち覚えていられるか。今はその話ではないだろう。精霊よ、神性力をもってこの兇変を止めてくれ」
精霊たちが、王の命に自らを発光させるだけで答えることはない。王女は可笑しそうに笑い、王に告げる。
「貴方が置かれている状況というものを理解していないのね。……生存者はついにわたしたち2人だけになってしまいましたわ。まだこの大広間に濁流が流れ込んでくるまでもう少しあるでしょう。少し昔話をしましょう。お父様」
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