ハロー、マイ・エンドロール

甘味好

序章

いつかの、どこかで


 歩くたびに、思い出すものがある。

 それが何なのか、どんなものか、というのは漠然としていて、これだと言い切ることはできないけれど、それが存在するということだけは知っていた。

 それが何であれ、どんなものであれ、ただ一つ確かなこととして、脳裏に浮かぶ幻影が如何とも言い難い軋みを主張して、無視できない余韻を残して消えていく。

 音が、耳元を掠めて。

 匂いが、鼻先を過って。

 手を伸ばしても掴めない質感と温もりが、傍らに並んでいるのがわかる。

 立ち止まって、そちらに目をやっても、そこに誰かがいるわけでもない。

 今、自分が歩いている一本道の乾いた土と、側面を彩る形も色も様々な花々があるだけだ。

 あるものは天を、またあるものは地や、どことも知れない彼方を向くそれらの、たまに吹いてくる風にさわさわと揺れる鮮やかさが眩しくて、反射的に目をすがめた。

 気が遠くなるほどに深くて蒼い空の下、陽に照らされた極彩が視界を埋める。

 確認を終えて再び歩き出すと、また、何かがこみあげてくる。

 懐かしさに似て、だけど悔悟にも似て、やっぱり、確として定義するのは難しい。

 そして、それは、隣の気配も同じだ。

 共に並んでいるのは一緒に歩いてくれているのだろうか、ただ方向が同じだけなのかよく分からないけれど、見ようと目を凝らせば凝らすほどまた逃げてしまうような、消えてしまうような気がして、だから、何もしない。


 また、立ち止りたくなったけれど、今度は、止まらない。

 ただ、歩くだけだ。

 サラサラと傍らを掠めていった、塩辛い風に押されるようにして。

 ただ、歩くだけだ。

 届かない先へ、手向けられた花々で満ちた一本道を、たった一人で。

 ただ、歩くだけだ。


 さて、ここで一つ問題だ。

 これから先を歩いて、歩いて、歩き続けたとして。

 どこで終わりにして、立ち止れるのだろうか?

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