一、巻紙
寄席の楽屋では所謂ティッシュペーパーは置いてありません。
トイレットペーパーが楽屋の机の上に置いてあって、
それを“巻紙”(まきがみ)と呼んでティッシュペーパーのように使います。
トイレに置いてあるのがトイレットペーパー、楽屋にあるのは巻紙と
全くおんなじものの呼び方が変わるんです。
なんでかはわからない。
これはある師匠から伺った話です。
その師匠が前座の頃に楽屋の巻紙がなくなると木戸に行って
巻紙くださいと伝えると、その場では渡されず後から
痩せて青白いおじいいさんが二つ親指と人差し指と中指に挟んで持ってきてくれる。
毎回、必ずその青白いおじいさんが届くれたそうです。
でもその青白いおじいさんは木戸でも裏でもどこでも見かけない、
師匠も巻紙を持ってくるときだけ見かける青白いおじいさんとして、
そんな人も寄席にはいるんだなあと特に気にしなかったそうです。
(前座はやることがたくさんあるので気にしてる暇はなかった)
前座修業が終わって二ツ目に昇進、やがて真打に昇進した頃にはそんなことは
とっくに忘れてしまっっていたそうです。
あるとき何かのきっかけで、楽屋の巻紙って不思議な習慣だよねという話の流れで、
あの青白いおじいいさんが必ず持ってきてくれたよねと話したところ、誰もそんな
おじいさんは知らない、見たこともないとなったそうです。
師匠はあの青白いおじいさんはなんだったんだろうと今でも不思議に
思ってるそうです。
私も気になったので、上の師匠方何人かに“青白いおじいさん”と“巻紙”について
伺ってみたんですが、誰も知らないとおっしゃってました。
その“青白いおじいさん”ってえのは一体、何者だったんでしょうか・・・
“巻紙”だけになんだか巻かれたようなお話。
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