非常に実用的なメソッド

ViVi

“死への道のり”を

 俗に“タイトル回収”と呼ばれる概念がある。


 作中で、作品の表題タイトルそのものをそのまま(もしくは変形をともなって)登場させる、修辞技法の一種だ。

 その手法や意味合いは、作品ごとに多様である。一種の倒置法や予弁法のようにはたらくこともあれば、パラフレーズとして作用することもあるし、タイトルに別の修辞法が仕込まれていることもある。

 とはいえ、おおむね共通する性格として、「読者を興奮させる」点が挙げられよう。ありふれてはいるが、非常に実用的なメソッドだ。


 おっと。わたしは、ただ趣味嗜好の話をしたいわけではない。

 これには、れっきとした読書感想文……と、すくなくとも強弁しうる文脈があるのだ。安心していただきたい。


 さて、日本で国語の教科書をながめたことがあれば。

 あるいは、カクヨムで胡乱な小説を読みあさったことがあれば。

 およそほとんどの者が知る作品、『走れメロス』。


 初出は1940年――現在からみると、80年以上も前にあたる。それでいて、原典はいうにおよばず、数多のパロディをとおして、今なお親しまれている名作である。

 この作品の山場は、メロスが諦念から希望へと立ち返る瞬間にある。一度は投げ出した“死への道のり”をふたたび歩みだし、自らを鼓舞するのだ――


 「! 」と。


 すなわち“タイトル回収”だ。

 そのなんたる見事なことか――メロスが急転する最高潮の瞬間に、タイトルが回収されている!






 ……ところで、かように気ままに書きなぐっているだけで、もはや字数は600を超えている。

 原稿用紙の二枚など、そのていどの量だ。


 つまり、読書感想文をやっつけるのは容易いのだ。


 なんなら、このテキストからコピペしてもいいんじゃないかな。これもまた、非常に実用的なメソッドだろう。みんなやってるよ。たぶん。

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