ありふれた浮気③
──ララはユリウスを、ただただ肯定してくれた。
最初は慰める側だったのに、彼女と話すうち、次第に自分が慰められるようになっていた。
領地や、そこにいる人々のことはとても大切に思う。
けれどメリーアンも、ユリウスの仲がいい人たちも、結局はクロムウェル領にいる。ユリウスの守護対象だ。
ユリウスはみんなが誇らしくいられるような領主でいたかった。
メリーアンを守れるような男でいたかった。
結局、ずっとそれがプレッシャーだったのだろう。
ララはある意味、理の外にいるような存在だった。
クロムウェル領になどなんの関係もなく、ただただ無垢で純粋で、思いっきりユリウスを甘やかしてくれるような存在。
メリーアンは、お互いどんなに支え合っていたとしても、最後は絶対に自分が守るのだと信じてやまなかった。
全てから解放されてララと一緒にいることは、ユリウスのストレスを緩和させた。意地を張らず、ダメなところを見せて、甘えられる。ほっとするような、そんな存在。
メリーアンのことは愛している。
今までずっと一緒に戦ってきた戦友のようなものだ。
けれどララに癒しを求め、また恋心のようなものを抱いていたのも事実だった。
後になって思えば、ミアズマランドという異常な労働環境が、ユリウスの理性を弱くさせていたのかもしれない。魔獣との戦いで疲れ果てた時に、ララの笑顔を見ると、ほっとするのだ。
今この場所では、ララと一緒にいたい。
それがユリウスの正直な気持ちだった。
*
「明日で最後ね、この浄化の旅も」
真夜中。
衣ずれの音で目がさめたユリウスは、テントの外から出ていくララを発見し、そっとその後をおった。
最近は、こうして真夜中に二人で語り合うことも多くなっていた。
二人きりの時は、口調も砕けたものになっている。
「ああ。ララ、君は本当によく頑張ったよ」
そう言うと、ララは月を見上げたまま、嬉しそうに微笑んだ。
「ねえ、ユリウス。あなたと一緒にいられるのも、明日までなのかしら」
「それは……」
明日急に、とまではいかない。
王宮に送り届けるまでが、ユリウスたち近衛の任務だ。
だがそれ以降は、確かにもう会うことはないのかもしれない。
ユリウスは領地を守るのが仕事なのだから。
「あのねユリウス。私、あなたのことが好き」
ララが振り返った。
月光の下で泣きそうになりながら微笑むララは、それこそ女神のように美しかった。風が彼女のプラチナブロンドを攫う。薄着の肩にハラハラと髪が落ちていくのを見て、ユリウスはどきりとしてしまった。
「俺は……」
「分かってるの、ユリウス。あなたに婚約者がいることは」
「……」
「でも自分の気持ちは誰にも変えられないもの。私、こんなに人を好きになったことなんてないわ? ユリウスが、全部初めて」
ララはそう言って微笑んだ。
「返事を聞きたわけじゃないの。だから……一度だけでいい。私に、素晴らしい恋をしたっていう、思い出をくれませんか」
一度だけ。
その甘い言葉が、ぐるぐると頭の中で回る。
(いけない、メリーアンが)
彼女を裏切ることになってしまう。
けれどユリウスがララに恋をしていることも事実だった。
揺れ動く理性の狭間で、ララが妖艶に微笑んだ。
「来て」
……一度だけ。
これで最後にしよう。
ユリウスはララの甘い誘惑に絡め取られるように、その手をとってしまった。
*
衝動的に、ララとそういう行為をしてしまった。
ユリウスは避妊しなかった。
それはララが願ったことでもあった。
たった一度のその行為で、ララは子どもを宿した。
回数など関係ない。
女性の周期の問題だ。
それをよく分かっていたはずなのに。
それを過ちというには、あまりにもお腹の子どもとララの尊厳を踏み躙っていた。
責任は取らなければならない。
ララはこれから、命をかけて子どもを産むことになるのだから。
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