第二十二話 魔皇国のヤサグレ兵士が現れた

 取り敢えず三人の王族の実力も確認出来たし、町に戻る事になった俺達。その中でツヴァイ兄上から情報を教えてもらった。魔皇国が帝都に向けて快調に進撃しているらしい。いいのですか? そんな国家情報をこんなトコで喋って。


「ああ、それは大丈夫。ココには身内しかいないからね。護衛も連れて来てないのはその為なんだよ」


 はい、そういう事だったんですね。理解しました。


 でも何故かこの辺境都市に向けては軍を向けてきてないそうだ。俺は不思議に思ってレイに聞いてみた。


「なあ、レイ。魔皇国がフレンズに向けて兵を出さないのは辺境伯様と何かしら取引があるからなのか?」


 レイは俺の質問に答えてくれた。


「うん、そうなんだ。皆にもこの機会に言っておくよ。父であるグライドはこの混乱を好機としてこのフレンズを国として帝国から独立させるつもりなんだ。その為に魔皇国の皇帝にも事前に連絡をとって、攻めてこないようにと親書を出しているんだ。皇帝とは以前から付き合いがあったし、父が独立するならば応援しようって返事をいただいてるそうだよ。これは、ツヴァイやニース、シオリにとっては聞きづらい事かも知れないけど、今の帝王のやり方では民を犠牲にして自分たちの権力だけを増やす事に固執しているから、そんな国からは独立しようとそれこそ何年も前から父は画策していたんだ。黙っていてゴメンよ、ツヴァイ……」


 その言葉に対してツヴァイ兄上から出た言葉に俺達は驚いた。


「いやー、レイナウド。良いんじゃないか。グライド叔父上なら良い国を作られるだろう。これで僕も王族から逃れる事が出来るし、ニースやシオリも喜んでると思うよ」


 はい? 俺を含めて皆の顔にハテナが浮かぶ。そんな皆の顔を見ていたツヴァイ兄上が言った。


「僕やニース、シオリはつくづく父や正妃、兄に愛想を尽かしているんだよ。まあ、正妃は僕と兄しか産んでないけど、姉上達やニースを産んだ側妃も父達と一緒だね。何故か僕やニースは感化されずに済んだけど良かったと思ってるよ。今回、フレンズにやって来たのは父達と決別するつもりがあったからなんだ。シオリは養女に迎えておいて、兄上の側妃にされる予定だったから危険を回避するという名目で一緒に連れ出したんだよ」


 はあ、そうなんですか。でも、それでこれからどうやって生きていく予定なんですかね?


「で、僕やニースにシオリはフレンズで冒険者ギルドに所属してクランを立ち上げようと思ってるんだ。レイは王太子になるから誘えないけど、カールやセレナはどうかな? ガイに、キャル、メイ、サイも入ってくれたら嬉しいな」


 イキナリな話だったから俺達は即答は出来なかったけど、ツヴァイ兄上ならばいいクランを立ち上げるだろうな。そんな事を思っていたら、レイが心外だといった風に喋り出した。


「ツヴァイ、僕だけ除け者にするなんてそんな悪魔のような所業は許されないよ。勿論、僕も入らせて貰うよ」


 いや、それはグライドさんに確認してからの方がいいんじゃないの、レイ? まあ、そんな話をしながら町に戻っていた時だった。後方から馬蹄が響いてきたんだ。


 僕達を認識したようで、僕達から三メートルほど離れた場所で馬を止めたのは兵士のようだったけど、どうやら魔皇国の兵士のようだ。三十人ほど居るけど、明らかに柄が悪そうだね。その中の一人がマーチ姉さんに向けて喋りかけた。


「おい、女。この先に我が国と友好を結ぼうとしている辺境都市があるそうだが、まだまだ先なのか?」


 聞かれたマーチ姉さんは平然として答えた。


「どちらの兵士様か存じ上げませんが、この先ではございませんよ。辺境都市はアチラの方角になります」


 マーチ姉さんが指差したのは俺が訓練していた崖がある方向だ。アソコにはそれなりに強い魔獣がいるけど、姉さんやるね。


「むっ、聞いてた話と違うな…… まあいい。それよりも女、俺達は長旅をしてきてな。アッチの方が溜まっているんだ。お前が一人で相手をしてくれるなら、そっちの子供達には手を出さないが、どうする?」


 下卑た事を言い出した兵士を見てツヴァイ兄上が堪らずに喋りだした。


「待て! 貴殿らは何処の国の兵士だ! 帝国の兵士ではなさそうだが、まさか魔皇国の兵士なのか?」


 兄上の問いかけに兵士達は笑い声をあげて答えた。


「何処ぞの貴族のおぼっちゃまは大人しくしておいた方が良いぞ。そうだ、俺達は魔皇国の精鋭でこの三十人で後ろにある村を壊滅してきたんだ。疲れたからな、友好を結ぼうとしている都市で体を休めようと思って進んでいたらお前達が居たという訳だ」


 続けてもう一人が喋りだした。


「隊長、俺は年増よりもコッチの若い女が良いですぜ。男のガキは全部殺して女は生かしてヤッちまいましょうや。俺と同じ考えの奴が八人は居ますからね」


 あーあ、コイツら死んだな。よもやマーチ姉さんに対して年増とか…… ご臨終です……


「ガイ、それに他の皆にも言っておくわ。さっき喋ったあのバカだけは私に置いといてね。フフフ、死にたくなるような地獄を見せなきゃダメなようだから……」


 怖えぇー! レイも含めて俺達はマーチ姉さんよりも前に出た。それを見て隊長と呼ばれた男が言う。


「んー? 何だ? ヤるつもりか、ガキども。それなら容赦せんぞ! おい、五人は馬を見ておけ、他の者はこのクソ生意気なガキどもを懲らしめるぞ!」


 隊長の男の号令で馬から降りて武器を手にする兵士達。ソコにツヴァイ兄上の魔法が飛んだ。


「ガッ! な、何だっ!!」


 十人程が神経麻痺魔法を喰らって倒れる。その中にマーチ姉さんの標的もいる。更にサイの魔法も放たれた。


「上級魔法 電撃ショック」 


 コレは繊細な魔力操作で人が受けても死にはしないが、痺れて一時間は動けなくなる魔法だ。その人によって耐性が違うけど、サイはそれを見極めてキッチリ全員が一時間動けなくする事が可能だった。

 コレで残りも全員が動けなくなる。すると、馬を見ておけと言われ、馬に乗ったままだった五人が逃げ出そうとした。


 俺は皆を手で制して飛んだ。馬上の五人を一人一人、頭を叩いて昏倒させて馬から叩き落としてやった。兵士らしくカブトもしてるから頭を打っても大丈夫だよな…… あ、一人は足が変な方向に曲がったや…… うん、命に別状は無いだろう、と思う……


 この兵士達は縛りあげてココに転がして置く事にした。一人を除いて。そう、一人はマーチ姉さんが俺達に見えない所に連れていった。十分程で戻ってきたけど、連れて行ったときには鮮やかな金髪だった男が、白髪になっていて、目が虚ろでブツブツと聞こえない声で言ってるのを見た俺達は、何も見なかった事にしたのは言うまでもない……

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