第二十話 三人の実力
翌朝、門の前に俺達とマーチ姉さんは揃っていたけど、伯父や辺境伯様は来ていなかった。マーチ姉さんがフフフと笑っていたけど、まあ伯父上ご愁傷さまです……
それから俺達は何時もの陣形になった。俺とカールが前衛。レイとメイ、サイが中衛。キャルとセレナが後衛だ。そして、最近になって増えてきたキャッスルボアを退治する事にした。城のように大きなボアという名の魔獣は、その体高が六メートルもあり、ボアの中でも最大だ。時にはワイバーンでも不覚を取るそのパワーは絶大だし、土魔法も使用してくるから並の人間では太刀打ち出来ない。
しかし、俺達は違った。
「居るよ、前方五百メートル先にキャッスルボアが二体だ。よーし、景気良く狩って新しい住民に振る舞おう!」
レイがそう言って教えてくれた。マーチ姉さんと共に最後尾に居る王子達三人は姉さんに質問していた。
「マチルダ様、キャッスルボアは騎士団が二十人一組で、罠を使用して何とか狩れる魔獣です。それが二体も居るなら危険では?」
ツヴァイさんにそう聞かれたマーチ姉さんは、微笑みながら答えた。
「フフフ、殿下。私に様なんて敬称は不要ですよ。それから、ご質問の答えですが、百聞は一見に如かずです。あの子達の連携を良く見ておいて下さいね」
先ずは俺とカールが派手な音を立てながら、中衛や後衛が離れすぎない速度でボアに近づいて行く。俺とカールに気がついたボアの一体が土魔法を発動した。俺はカールの前に出て、蟷螂剣で飛んできた岩を斬った。剣で斬られた岩が消える。それに不思議そうな表情をしながらも、俺達を敵認定したボアが突進してきた。そこにメイの岩壁が立ち塞がり、激突する二体のボア。脳震盪を起こしたようで、フラフラきているが、レイの魔眼を見て固まった。そこにサイの弱めの雷撃魔法が炸裂した。完全に麻痺状態になったボアの首を、俺とカールが剣で斬った。
ゴトリッという音が聞こえてきて首が落ちてボア二体を退治し終えた俺達は、すかさず魔石を取り出して、キャルの家政魔法で手早く血抜きを行い、メイの生活魔法で解体して、サイの収納に収めた。
戦闘開始から十分で終わった一連の作業を見て、三人の王子達から賞賛の声が上がった。
「素晴らしい! レイナウドの指示も凄いけど、その指示通りに皆が動けるとは! 本当に凄いな!」
「ガイさんの剣は魔法を斬ったようですけど、そんな事が可能なんですか? 僕は初めて見ました!」
「メイさんやキャルさん、それにサイさんの魔法の精度がっ!! 私もその領域に達したいですわっ!!」
三者三様に俺達を賞賛してくれる。そんな三人は刺激を受けたのか、こう言い出した。
「ニース、シオリ、私達も三人で組んで魔獣を狩ってみよう!」
「兄さん、そうだね! 流石にキャッスルボアは無理だけど、イビルボアならイケると思う!」
「私も頑張ります!」
そこで、レイとカール、セレナが入って前衛にカールとニース。中衛にレイとツヴァイ。後衛にセレナとシオリで陣形を組んで進む事になったんだ。
暫く進むとレイが指示を出している。どうやらお目当てのボアがこの先に居るようだ。俺とキャルとメイ、サイの四人は直ぐにフォローに入れるように後衛の二人の近くで待機している。
現れたのはグレートボア。魔獣としてはイビルボアよりも弱い個体だけど、三体もいる。さて、どうするのか? すると中衛のツヴァイが魔法を唱えた。三体のうち二体がその場に倒れてピクピクと痙攣している。それを見たマーチ姉さんが、
「アラ、珍しい魔法を使用出来るのね。アレは神経麻痺魔法よ。普通の麻痺魔法が効かないモノでも神経麻痺魔法は良く効くわ。ツヴァイ殿下のギフトかしらね」
そう俺達に教えてくれた。その二体に向かって走り出したカールとニース。残り一体は後衛のセレナとシオリに向けて走り出していた。俺は二人を守ろうと前に出ようとしたけど、セレナとシオリは二人で同じ魔法を向かってくるグレートボアに放った。
「「上級光魔法! 紫光線!」」
紫色の光がボアに向かって飛び、眉間に刺さった。ドウッと倒れるボア。
カールとニースも一振りでボアの首を落としていた。キャルが血抜きを行い、メイが解体して、サイが収納した。俺は素直に三人の実力を賞賛した。
「三人とも凄いですね。ツヴァイ殿下の魔法は凄い威力ですし、ニース殿下も一振りでボアの首を落とされてますし、シオリ殿下の光魔法の精度はセレナと比べても遜色ありませんよ」
俺がそう言うと、ツヴァイが返事をした。
「ガイ、君が王族に興味が無いのは分かってるつもりだ。けれども、僕達と君とは紛れもない兄弟なんだ。他の人が居ないこんな場所ではどうか兄弟として接してくれないかな? 何も助けてあげれなかった不甲斐ない兄ではあるけれどね……」
いやいや、俺が産まれた時には二歳なんだから何も出来なくて当たり前だからね。そんなに落ち込まないで。俺はツヴァイに心の中でそう突っ込みながらも、その言葉に嬉しくなり返事をした。
「分かりました、兄上。護衛や侍女が居ない場所ではそうします」
俺の言葉にレイが反応した。
「おや、それでは僕もガイ殿下と言わないとダメですね」
「いや、レイ様はこれまで通りでお願いしますよ」
俺がそう言うもレイは、
「それじゃガイも僕の事はレイと呼び捨てにしてくれないと。カールやセレナは呼び捨てで、僕だけ様をつけて呼ばれて僕は寂しいんだよ」
なんて言い出した。更にカールやセレナも
「そうだぞ、ガイ。幼い頃から一緒に訓練をしてきたレイ様なんだから、ちゃんと呼び捨てで呼ばないと」
「ガイ様、私もその方が良いかと思います」
「いや、待て待て。カールもセレナもレイ様って呼んでるよな。何で俺だけ? それにセレナは逆にレイさんって呼ぶのに、俺に様をつけるのは何故?」
俺の突っ込みにカールは、
「そりゃ、俺はレイ様とは身分が違うからだよ」
と言い出し、セレナは
「私はガイ様はもうガイ様としか呼べませんわ」
と言う。
「いや、身分って言うなら俺は平民ですけど」
って言っても、もう違うのが分かったんだから、観念しろと言い出すし。まあ、こんな風に突っ込みを入れてくれるからそう思ってないのは分かるけどね。
結果、俺はツヴァイ兄上以外を呼び捨てで呼ぶ事に決定した。しかも、護衛や侍女の前でもだ。何でも今回一緒に来ている者達は信用出来る者ばかりだからと力説されてそういう事になってしまった。
うーん、果たして大丈夫なのか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます