第十七話 発展する辺境都市フレンズ

 ワーズマン帝国の辺境都市フレンズは、近年まれに見る発展を遂げていた。まず、帝都に本部を置いていた帝国一の商会であるグレード商会が、二年前に帝都から撤退し、辺境都市フレンズに本部をうつした。

 更に、帝都近辺の農村から農民たちがこぞって集まってきたので、辺境伯が周辺の土地を開拓する許可を与えて、更にはその開拓地も防壁で囲いこんだので、帝都よりも広い都市が辺境に誕生したのだ。

 何故、こんな事になったのかと言うと帝王であるビケイ・ワーズマンが隣国である魔皇国に宣戦布告を行った為だ。無駄に自信を持っている帝王は、領地拡大を狙って魔皇国に戦線布告を行った。まだ戦争は起こってはないが、魔皇国は売られた喧嘩は買う国である。魔皇国の皇帝は宣戦布告を受けてから、急速に自国の兵を編成して帝国に攻め込む準備を始めていた。

 帝都では宣戦布告後に大将軍の命名式を行い、各部隊の編成を行い、その麾下に入る兵を募りと本来ならば布告前にしておくべきことをエッチラオッチラと始めた所であった。


 そんな状態であったので帝都近隣の庶民は村を捨てて辺境都市フレンズへの移動を始めた。グレード商会も村を出る村民達の元に、商会の商人を派遣して家財道具を商人特有のアイテムボックスを活用して無償で運んでやっていた。勿論、本来であれば領地経営をしている貴族の許可なくそんな事は出来ないのだが、まともな考えを持つ領主である貴族自身が辺境伯を頼って帝都近隣から逃げるんだと領民に布告し、領民が全てフレンズに向けて旅立ったのを見届けてから、帝都に赴き作戦会議に参加していた。まともな思考の持ち主ゆえに、これまで貴族としての栄誉を与えてくれた帝国と共に散ろうと考えて、戦う力のない領民を逃してから帝都に留まったようだ。逆に自分自身の安全の為に、家族すら見捨て亡命した貴族も多くいた。


 辺境伯はまともな考えを持つ貴族たちからの要請を受けていたので、フレンズに来る者たちを受け入れる為の準備を二年前から始めていた。今年は自身の嫡子レイナウドが十五歳になり成人したのもあって、着々と進めていたのだ。しかしながら、辺境伯自身はあと二年は準備期間が欲しかったと考えていたのだが……

 しかしながら非常に優秀な者たちがフレンズには集っていた。先ずはダイアン商会だ。三年前に立ち上げられたこの商会は、グレード商会傘下ではあるが、独立採算制で今までに無かった商売を考えて、これまで廃棄されていた様な物を商品へと変えていった。それにより、フレンズと友好的な関係にある王国への輸出品が増えて、一都市では考えられない収入をもたらしていた。商会代表のダイアンを筆頭に、五人の年若い幹部が柔軟な発想で作り出す商品の数々は辺境伯にとっては救いの手であった。

 更には、その商会の代表や五人の幹部と同い年である、四人の庶民の子と、メイルサ家とドワーズ家の子息子女二人を加えた子らが都市周辺の魔物、魔獣、はたまた盗賊まで定期的に間引きしてくれているお陰で、街道を皆が安全に通れる事も大きかった。

 また、都市周辺に空き土地が多かったのも幸いであった。王国との国境を除いても、半径五十キロにも及ぶ草原や湿地帯があったので、ソコを農地や新たにやって来る農民たちの住居地として活用出来たのだ。

 先ずは防壁で囲う事を優先して準備を始めて、防壁が完成し現在は区割りも終わって、農地と住居地に分けて急ピッチで建物を建てている。フレンズに一番近い村から百名程が逃げてきたのだが、その者たちにも協力してもらい、更に建物を増やしている状況だ。

 目算で凡そ三千人程がやって来るとみているが、十分に生活出来る広さである。


 こうして、帝王による失策を尻拭いしているような辺境伯であるが、それも仕方がないと諦めていた。何故ならば、辺境伯の本当の地位は大公であり帝王の弟にあたるのだ。

 そんな地位の者が何故こんな辺境に居るのかというと、兄である帝王が弟である大公を疑い、自分の地位を脅かす者として見ているからだった。よって、そんな野心を持たない大公は自ら辺境に赴き、帝都には立ち入らないと宣言をしてこの地を守ってきたのだ。そして、今がチャンスだと考えている。そう、ワーズマン帝国からの独立を宣言して、新たな国を作るチャンスだと。愚かな兄を見限り、新たな民を守る国を作ろうと大公は何年も前から計画していたのだ。

 大公は友好国である王国とも連絡を取り合い、隣国の国王からも了承を得ているので、後は機会を伺い独立宣言を出すだけであった。

 その日も近いだろうと思われる。

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