第十六話 グレード商会の奉公人(ご子息再び)
皆さん、暑い日々が続いておりますが
お陰様でアイテムボックスのスキルを得る事が出来まして、更に自衛スキルも獲得いたしましたので、簡単な戦闘技術も持ち得る事が出来ました。
そんな私ですが、今朝は支部長と離れて仕入れにやって来ております。これは支部長からの試練でございまして、辺境都市フレンズ一の柑橘農家であるポン様のお宅にお邪魔しております。ここで何らかの成果を上げれば何と私の名を冠した商会を立ち上げる事が出来るのでございます。気合も戦略も十分に練ってまいりました私は、今回こそはポン様から色よいお返事をいただけると信じております。
「だから、何度きてもウチの柑橘は売らんと言っておるだろうに。ウチの柑橘は全て辺境伯様に卸しておるからグレード商会に卸す余分などは無いんじゃ。更に前回は廃棄処分用の柑橘を売るのではなく研究の為にというから分けてやったが、アレを売り物にするなぞとはとんでもない。ウチの名が地に落ちてしまうわ!」
今日もポン様のお断りの言葉を聞きながら、私は昨日の内に考えた作戦を実行する事に致します。
「ポン様にお聞き致します。確かに、辺境伯様に卸しておられる柑橘は私共に卸すのは無理でございましょう。しかしながら、ご自宅用に辺境伯様に卸せない柑橘がある事も私は確認しております。いえ、それを売ってくれと申しているのではございません。その、ご自宅用にもなっていない廃棄処分されている、前回来たときに分けていただいたミンカン、グンレープ、ケッサクを私共の商会に卸していただきたいのです。勿論、ソレをそのまま販売するような事は致しません。私が考えているのは混合果汁ジュースでございます。ポン様の果樹園で育てられたけれども、基準に達してない普段は廃棄されているミンカン、グンレープ、ケッサクの三種類の柑橘の絞り汁を、最適な割合で混ぜ合わせてジュースとして販売したいと考えております。私がその考えに至ったのは、先日ポン様に分けていただいた廃棄用の柑橘です。確かに柑橘としては甘さが足りておりませんが、三種類を混ぜ合わせる事によってそれも補えると私は愚考致しました。ですので、あの廃棄用の柑橘三種類を私共、グレード商会に卸していただけないでしょうか? 勿論、ポン様にご納得いただける代金をお支払いたします」
私はそこまで一気に喋って頭を垂れる。その私の頭にポン様から声がかかった。
「むう〜、若いのにそこまで考えてくれるとはな…… しかし、問題はそのジュースの味だ。仮にも廃棄用とはいえウチの柑橘を使用するんだ。生半な味では販売させる訳にはいかん!」
そのお言葉に手応えありと見た私は更に奥の手を晒す事にした。
「実は、コチラに先日いただいた柑橘を使用して試作品を作ってきております。ご試飲いただけますでしょうか?」
そう、既に試作は済んでいたのだ。試作に協力してくれたのは、グレード商会傘下のパン屋、服屋、雑貨屋、食堂、薬屋の私と同じ年の私的な仲間たちなのです。
パン屋は作っているパンに合う味と子供でも飲めるように酸味を抑えたジュースを求めて配合を考えました。
服屋と雑貨屋は衛兵や冒険者が喜ぶような味を。
食堂と薬屋は究極の味を求めて配合を繰り返してくれました。何せ、廃棄用だからとポン様は好きなだけ持っていけと仰って下さったので、素材だけはたくさん有りましたから、研究は進みました。そして、出来た三本のジュースを試飲していただこうと持参したのです。
私がコップも三つ用意したのを見てポン様が頷いております。それぞれ味が違うのですから、三つ用意するのは当然の事ですが、かなり以前に別の商人が同じような事を提案してきた時には一つのコップで五種類も試飲させようとしたので、怒って叩き出したそうです。
私は慎重にコップに三種類のジュースを注ぎました。
「一番右のコップは小さい子でも飲みやすいように、酸味が少ない配合を心がけました。真ん中のコップは町を守る衛兵さんや、冒険者さんに満足して飲んでいただけるようにと、酸味も少し強く感じる様な配合です。左のコップは万人受けを狙った
そう言って私は四つ目のコップに水を注いで準備をしました。
「うん、いただこう。だが、味が悪いと正直にワシは言うぞ!」
「はい、勿論でございます」
私の返事を聞いてからポン様が右のコップを手に取り口に含みます。ノドがゴクリと動き、更にもう一口。それから、水のコップを手に取り口を濯ぎ、真ん中のコップを口に含みます。コチラももう一口。更に水のコップで口を濯ぎ左のコップを手に取り口に含み、目を閉じて考え込まれました。
むう、自信があったのですがダメだったのでしょうか……
「ダイアンよ、それぞれの商品名は考えているのか?」
おもむろにポン様がそう尋ねてきました。
「は、はい。右から
「フフフ、ワシの名をな…… 良いだろう、これなら我が柑橘達も喜んでジュースになるだろう。これまで廃棄していた三種類の柑橘の不出来なモノをグレード商会ではなく、ダイアン個人に卸そう。勿論、ジュースをグレード商会で販売するのはダイアンの自由だ。但し、ワシが取引するのはダイアン、お前個人とだ。いいな!」
商人として最高に嬉しいお言葉をポン様からいただきました。それから、私は契約書をポン様と交して定期的に仕入れさせていただく事が決まりました。それから急いで商会に戻り、支部長に報告しました。すると、
「よし、ダイアン。今回のポン様との契約で、お前も若いながらもう一端の商人になった。そこで、約束通りにお前個人の商会を立ち上げる事にする。そのジュースを先ずは売り物にするんだ。グレード商会で買い取るからな。それと、今回配合を一緒に考えてくれた友人たちにちゃんと報酬を用意しろよ。なに、もう用意してあるのか…… うん、本当にお前は成長したな。ならば先程俺が言った通りのようにしろ。ダイアン商会を立ち上げるんだ。そして、友人たちを雇え。幸いみんな自分の家業を継ぐ必要がない次男や三男、次女なんだからお前の商会で雇ってしまえ。かけがえの無い仲間になってくれる筈だ」
「はい、支部長! コレからは取引相手としてよろしくお願いいたします!」
私は今から忙しくなる。精力的にかつ、計画的に動かねばと心を引き締めて、商会立上げを行う事にした。
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