その少女が生きのびた理由

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 生き延びてしまった。


 最後の一人になるまで生き残ってしまった。


 私はこの施設の中で一番弱々しかった。


 一番生きられない人間だと思っていたのに。


 とうとう最後まで生き延びてしまったらしい。


 どうしてこんな大誤算が起きたのか分からない。





 私にはその実験場での記憶しかない。


 私が育った場所。


 その場所は何らかの実験をする施設だった。


 実験を行うのは人間で。


 その実験対象は、孤児だった。


 親のいない子供を狙って攫い、使っているのだった。


 実験場の目的は、禁術、とかいうのを成功させるためらしい。





 私以外にも集められた子供は大勢いたけど、私はその中で一番背がひくくて小さかったから。


 すぐに死んでしまうと思った。


 けれど、私は何度も生き伸びる事になった。


 私に実験の順番がまわってきそうだったら、誰かが私の前にでて、私の姿を隠した。


 私が飢えていたら、少ない食事を分けてくれる者がいた。


 私が病気で熱を出していたら、はやく治るように看病してくれた人がいた。


 それらの人達が自分の事だけを考えていれば、いま生き延びていたのはその人達だったかもしれないのに。


 いったいどうしてなのだろう。


 私には分からなかった。


 誰か理由が分かるなら教えてほしい。


 ぼうっとしていたら、騒がしくなった。


 いつもいれられている檻が開く。


 すると人が顔をのぞかせる。その顔は、なぜか見知った研究者の顔じゃなかった。


 その人物は「もう大丈夫だよ」と私に手を差し伸べてきた。






 数年前。


 年下の子は大切にしなければならない。


 この実験場に来るまえに、孤児でなかった頃、親から教えられていた事だ。


 生きていた頃の両親は、私の次に弟か妹を産むはずだった。


 だから、そんな事を言っていたのだろう。


 私はその事を強く覚えていた。


 親がいなくなって、孤児になり、実験場に攫われてからも。


 ある日、その実験場にとても小さな赤ちゃんがやってきた。


「おぎゃあ! おぎゃあ!」


 私だけでなく、他の子供達も驚いていた。


 今までなかった事だから。


 連れてこられた赤ちゃんは数人いた。


 禁術の実験では、様々な実験体が必要らしいから。


 だから、赤ちゃんも……と思って、研究者達が拾って来たのかもしれない。


 普通なら自分の事が大事だ。


 けれど、赤ちゃん相手にはどうしてもそれを貫けなくなってしまう。


 親に言われた事が理由だろうか。


 私はその赤ちゃんたちに優しくしていった。


 そしたら、他の子供も徐々にまねをするようになっていった。


 顔も名前も知らない孤児の集まりだったけど、私達は自然と団結して、赤ちゃんを守るようになっていった。


 けれど、そんな努力もむなしく、私達も赤ちゃんも一人ずつ犠牲になっていく。


 今生き延びているのは三歳になったこの子だけだ。


 せめてこの子は最後まで生き延びてほしい。


 私達より先に死なせたくない。


 この子を最後まで守りぬく事、それが大人達に命を弄ばれるしかない私達の抵抗だった。


 どうせ助けなんてこないだろうけれど、誰も助けてはくれないだろうけれど。


 せめて一分、一秒でも長く。


 私達より生きて欲しい。


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その少女が生きのびた理由 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

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