女の霊が出る家

まれ

噂『女の霊が出る家』

 少年・戒はある日、クラスメイトから一つの噂を聞いた。

 その噂の名前は『女の霊が出る家』。

 ある近くの一軒家にその女の霊が出るらしい。

 あくまで噂でしかなくこれと言って情報がない。

 わかっていることは、家の住所とそこに女の霊がいることくらい。

 戒は友達である心を肝試しすると言って誘った。

 今日がその決行日である。



「ここか?」

 戒と心は住所の書かれたメモを持ってその家の前に来ていた。

 家は古く屋根はトタンで覆われ、少し雨漏りしてそうなほどボロい木造住宅だった。

 心はビビっているのか少し震えている。

「ねぇ戒。本当にやるの?」

「あったりまえだろ?お前、こえーのか?」

「へ、平気だし!戒こそそんなこと言って怖いんでしょ。はは」

 おそらく嘘だろう。心の身体が震え声も震えていた。ちなみにおれは怖くない。幽霊とか信じないタイプだからな。

「まあ平気ってならさっさと終わらしちまもうぜ。どうせ幽霊なんて出ないんだし」

「そ、そうだよね。早く行こ!」

 二人はその家のインターホンを鳴らした。

 確実に押したが音鳴らなかった。



 しばらくしておばあさんが横引きの扉から出てきた。

 どうやら中にはちゃんと聴こえていたようだ。

 おばあさんはすこしボロそうな継ぎ接ぎの布の服に身を包んでいた。

「お前さんたちも噂を聞いてきたんかの?」

「はい。よく人がここへ来るんですか?」

「最近はよく来るね。若いやつらが」

 戒は怯えることなく淡々とおばあさんの質問に答えた。

 その間も心は腰から下がブルブルと震えていて今にも腰が抜けそうな状態だった。

 立ち話もなんだということで戒と心は家に上げてもらえた。

 家の中は思っていたより普通だった。すこし廊下などの床がギシギシと音が鳴ることがあったくらい。電気もガスも水道も通っているようだ。

 戒と心はそのままリビングに通された。そしてソファーに座るように促される。お茶も出てきた。普通に優しい人のように思える。

 おばあさんはテーブルを挟んで床に座るやいなや早速本題に入った。

「噂のことなんじゃがな。あれはおそらくうちの娘のことだね」

「娘さんはいつ頃亡くなられたんです?」

 戒は興味津々に訊いた。するとおばあさんは驚くべき発言をした。

「あれは、産まれたときから死んでたようなもんさ。ただ、それでも生きていた。三十年前くらいは」

 相当前に亡くなっているようだった。

「娘さんは大切じゃなかったんですか?」

 横から怯えながら心がおばあさんに向かって言った。

「あれは昔から出来が悪かった。それだけさ」

「なんて人だ!」

 心は感情を爆発させてしまった。

「すみません。こいつ今情緒不安定みたいで。お前ちょっと黙っとけ」

 戒はおばあさんに謝り、心を黙らせた。それ以降心の口数は減った。

「まあ良い。続けるぞ。最近、噂の二か月ほど前から心配しておるのか知らんが家によく来るようになった」

「一体何をしに来たんでしょうか?」

「それがじゃな窓が勝手に空いたり閉まったり、少し部屋を整理して帰るみたいなんじゃよ」

「娘さんを見てはいないですか?」

「直接はの。じゃが、雰囲気はわかる」

 親としての勘とそういうのだろうか。

「どれくらいの頻度で来られんですか?」

「そうじゃな、月に一回、決まった日に来よるな」

「そうなんですね。それはいつなんです?」

「毎月十三日じゃな」

 今日ではなかった。どうやら今日はその霊に会うことはなさそうだ。

「お話ありがとうございました。今日はもう帰ります」

 心も同時にソファーを立った。

「そうかい。気いつけてな」

 二人はそのまま玄関を出た。



「ほらなんともなかっただろ?」

「そ、そうだね……僕帰るよ」

 二人はそのまま別れ各々の家へ帰った。

 心はあんな人がこの世界には居たのかと思いながら。

 戒は思ったより面白くなく当てが外れたと思いながら。


 後日、戒と心は噂の教えてくれたクラスメイトに報告した。

 娘さんが噂の女であること。大したことなかったこと。

 クラスメイトは告げた。

「あの家の女の霊は老人って話だったはずだけど?」

 二人は青ざめた顔をして、しばらく固まった。

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女の霊が出る家 まれ @mare9887

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