俺の机の物入れにクラスの隠れ美少女だけど盛大に嫌われてる学級委員長のオッパイが生えてきた件

悠木音人

第1話

 数学のテストの時間、早々に答案を埋めて暇を持て余していた俺は、何気なく机下の物入れに手を入れ、そこに妙な感触を発見した。それは布に覆われた柔らかいもので、ほんのりした温かさを持っていた。


(なに、これ?)


 俺は正体を確かめるためにゆっくりと手を動かした。

 曲線に沿って手を動かしてまず思い浮かべたのは、下校の楽しみの一つ、コンビニで買う肉まんだった。カーブの付き方といい、温かさといい、まさに肉まんと言っていい。


 でも柔らかさが違う。

 もっと高級な……、そう。駅ビルのスーパーで売っているモッツァレラチーズだ。プルンという手ごたえといい、上品な弾力といい、まさにモッツァレラと言っていい。


 だけどこんなもの、自分で入れた覚えがなかった。


 誰かが間違って入れた?

 いや、テストを妨害するためのワナということも考えられる。

 引っ張りだそうとした途端に割れて、中の液体でズボンがびしょびしょになるとか!?


 誰かのいたずらだとしたら許せない。

 俺は正体を確かめてやろうと意識を集中させた。


 しかし正体を確かめるという俺の目的は、いつの間にかその感触自体を楽しみたいという欲求に変わっていった。その謎の感触は、触れば触るほど自分の指に馴染んで癖になるのだ。

 俺は大き目のマウスを握るようにその上に手を置き、ドレミファソを弾くように指を動かしてみた。ボリューム満点の水風船のように張力が移動して、流れるような反力が心地いい。

 次は少し変則的に、中央付近の少し出っ張っているところを黒鍵を撫でるように弾いてみた。何かそこに不思議な魔力でも込められているように、膨らみ全体がブルブルと震えた。


「うっ、くっ」


 突然俺の意識は現実に引き戻された。

 窓際に座っている隣の席の西川沙緒莉にしかわさおりさんが、苦しそうな声を出したからだ。

 彼女はくそまじめな学級委員長様で、メガネの奥からクラスの連中をおとしめるためのネタをいつも探してる……というのはクラスの連中のもっぱらの評価だが、本当は繊細な人だということを俺は知っている。


 そして彼女には特記事項として記載されるべき特徴が他にある。

 とても体が弱いのだ。

 どのくらい体が弱いかというと、朝礼や教室でぶっ倒れたことが何度もある。

 誰かに殴られたみたいな顔で登校してきた日の衝撃は今でも忘れない。

 折れた鼻をギプスで支え、メガネの跡に沿ってついた痣は改造人間みたいだった。


 そんなわけだから、俺が西川さんの異変に敏感になっているのも当然なのだ。

 テスト中であることもかまわず、俺は西川さんの顔をまっすぐに見つめた。

 額にうっすらと汗をかき、痛みに耐えるように胸を抑えている。


「先生、西川さんの具合が悪そうです」


「ん? そうか、なら保健係……いや、そうだな、大黒おおぐろ、お前が保健室まで連れていけ」

 先生は俺がすでに書き終えていた答案を見て、保健係でなく俺を付き添い役に任命した。


 階段を下りる時が一番緊張した。

 もしこんな場所で西川さんが前のめりに倒れたらと思うと気が気じゃなかった。

 本当は手をつなぎたかったけど、そんな提案自体できない俺は、万が一に備えて彼女の少し前を歩くくらいしかできなかった。

 やっぱり付き添いは女の子の方が良かったんじゃないかと思ったが、もう遅かった。


 保健室には誰もいなかった。

 俺は西川さんをベッドに座らせてから、先生を呼びに行こうとして彼女に手を掴まれた。


「一人にしないで!」

 彼女には悪いけれど、少し芝居がかったドラマみたいなセリフだと思った。

「先生を呼んでくるだけだけど」

「いい!」

「いいって……」


 理由はわからないけれど、そう強く拒絶されると無理にこの場を離れる気にはなれなかった。


 西川さんは下を向いていて、前髪がメガネの下の瞳を隠していた。

「何か心配事?」

「……」

「い、いつも小食だし、胃薬が必要な状況とか?」

「……」

「えっとー、俺がここにいる意味ないんじゃ……やっぱり先生を」

「呪われてるの!」


 西川さんが恐怖に震えた声で言ったその言葉は、濡れた板の匂いがした……。



「いやいやいや! そういうホラー展開あり得ないから!」

「信じないっていうの? 私が勇気を出して告白したのに」

「勇気出さなくていいから! さらりと冗談だったって流すとこだから!」

まなぶくんはいいわよね! いつも余裕があって、何があっても平気な顔をして」

「え? まなぶくん?」

 西川さんがピクリと体を震わせた。

 突然のマシンガントークに続く沈黙。

 こんな短い会話でも十年分ぐらい会話した気分だった。

 なにしろ、それまで俺たちの間に会話と呼べるものはなかったんだから。


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