攻略対象外は悪役令嬢の幼馴染を幸せにしたい〜前世の好みだったとか置いて!〜
ろくまる
序章
第1話 攻略対象外ってそもそもなんだよ!
木から落ちる直前、眩しい太陽がスポットライトのように見えた。
(──いや、スポットライトってなんだ?)
その直後、俺は後頭部を打って一週間ばかりベッドの上での生活を送る羽目になった。
なお。
目を覚ましてすぐ、俺は違和感に気付いた(頭が痛いとかではなく)。
覚えのない記憶が存在していて、むしろ10歳の俺──エデル・キルシュネライトの世界には無い「日本」という世界の知識や知らない経験があった。
そして、もうひとつ不思議な事も思い出していた。
「エデル、大丈夫? ごめんなさい、私が小鳥さんを巣に返して欲しいなんてお願いしてしまったから、あなたが怪我を……」
「大丈夫だよリリィ。俺は、ほら、あの親父に鍛えられてるから!」
「もう……私、本当に心配してるのよっ! でも、大きな怪我じゃなくてよかった」
陽の光にきらめく銀の髪、
リリアーネ・アインホルン。彼女はこのファルケ王国の宰相、アインホルン公爵のご令嬢であり俺の幼馴染だ。
リリアーネの父親と俺の親父、そして現国王の3人は王立シュヴァルべ学園で出会い、生涯の友となり(親父はアインホルンのヤツとは腐れ縁だのなんだの言ってたが)、今もその仲は続いている。
特に国王を支えるアインホルン公爵家とキルシュネライト伯爵家の両家は何世代か分からないほど昔から交流が深く、領地としても良好な関係を築いている。
そんな歴代で「ファルケの智」「ファルケの武」という異名をそれぞれ持つ親を持ち、同じ年の生まれであるという理由で引き合わされた俺達も例外じゃなかった訳だ。
「そういえば、バルドルから手紙が届いていたの。エデルにって」
彼女はそう言って手紙を差し出してくれたが、俺は苦く笑うしかない。
「あー、まだひとりで体起こすのはダメらしいんだ。代わりにリリィが読んで」
「分かったわ……自分じゃない人に宛てた手紙って、読んでいいって分かっていてもちょっと緊張しちゃう」
「ゆっくりでいいよ、俺もその方が聞きやすいし」
リリィは戸惑いがちに頷いてから、ゆっくりと詩を読むように手紙を読んでくれた。
内容は、勉強などで俺のお見舞いに来れない事、元気になったらまた一緒に剣を学びたい事、三人でまた庭でお菓子を食べよう、など。とにかく俺と早く会いたい、という事だった。
バルドル……バルドリック・フォン・ファルケ。彼はファルケ王国第三王子で、俺とリリィにとって弟のような子だ。
というのも俺達と同い年の第一王子クラウスには相手されず、バルドルと同い年の第二王子オーティスには側室の子供だからと馬鹿にされているので、俺とリリィが兄や姉代わりになっている。
クラウスもオーティスも王妃殿下の子なので半分血が繋がっているはずだが、バルドルの母であり亡き側妃に何か思うところのある周りに吹き込まれているらしく、バルドルはいつも二人の兄とその周りに見下されている。
しかし、分け隔てなく国王陛下が父親として愛している事、バルドル付きの侍女や教育係がしっかりと忠誠を誓ってくれている事、「ファルケの両翼」──つまりファルケの
しかしバルドルは勤勉で誰よりも周りをよく見ているとても良い子だ。7歳と思えないほど大人びてもいる。
周りがそうさせた、そうせざるを得なかったとも言えるが。
「なぁ、リリィ。バルドルは元気そうだったか?」
「ええ。私も妃教育の合間に会ったからたくさんは話せなかったけど……ふふ、バルドルったらこんなに字が綺麗になったのね」
無邪気にバルドルの綺麗になった文字を見せながらリリィは笑う。
彼女はバルドルだけにファルケの両翼の力を集中させてはいけないと考えた大人達によって、いずれ王位を継承するであろうクラウスと婚約させられている。
──招かれる悲しい運命を知らずに。
「ねぇエデル、顔が暗いわ。やっぱりどこか痛むの?」
「大丈夫。でも誰か呼んできて、体起こしたくなってきたから」
分かったわ、と立ち去るリリィの後ろ姿を見送って、一息ついた。
「日本」という世界にあったものに、同じ名と特徴を持つ人達を描いた女性向け作品「グレイス・ハート~聖女の心~」というのがあった。
リリィはその作品において「悪役令嬢」、俺は「悪役令嬢に従う攻略対象外キャラ」。
どんな選択をされても俺達はどうあがいても報われない立ち位置の悪役。
つまり、リリィはこのままでは幸せになれない。
「──ってか、攻略対象外ってそもそもなんだよ!」
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