空を見ていた
Nakaya
ごめん
8月5日
今日もカーテンの隙間から見える快晴。
もう少しであの日がやってくる。
それなのに、逃げてばっかりな俺に君は呆れているだろうか、それとも笑い者にしているのだろうか。気になって夜しか眠れない。
こんなこと、伝わるはずもないのに。
8月6日
昨日と同じ空。
でも、暑さなんてここにはない。引きこもり特権のクーラーがあるから。夏だからって外で遊ぶガキとは違うんだよ…って言いながら、去年は君に引っ張り出されて遊んだんだよな、あのときの水鉄砲持っていってやるか。
8月8日
少しサボった。けど、空は変わらない。
明後日に向けて準備をしなくちゃ。
8月9日
なぜか、雨が降っていた。
まるで俺の気持ちとリンクするように…
明日、伝えに行く。
8月10日
あの日と変わらない空を見たかったけど、昨日と同じ雨。それでも、行ってきます。
雨が降る中、君がいる場所へ向かう。
足取りは雨のせいかとても重い。
そして、気付けば病院へ着いていた。
受付を済ませ俺は、君がいる病室へ足を進める。
たくさんの思い出を詰めたカバンを持って。
「おはよう、元気?」
『…』
返事はない。
それも、1年間、ずっと。
「これ、1年前にお前に引っ張り出されて遊んだんだ水鉄砲。懐かしいよな、快晴の下で遊び疲れるまで遊んで。それで、夕方の帰り道…」
俺を庇って、赤信号を無視したトラックに…
「でも、俺が悪かった。君が母の形見を落として、それを俺が拾いに行ったから…」
もし、そんなことしてなければ…
「ごめん、」
『だいじょうぶ』
「え?」
俺がベットに横たわる君の方を見ると、うっすらと目を開けていた。
『だいじょうだよ、そら、』
「ゆう、?」
『ありがとう』
なんで、ありがとうなんて言えるんだ俺を庇って1年間も眠っていたのに…
『ひろってくれた、』
俺の手の方にゆっくりと手を動かす。
そこには、夕の母の形見である花の髪飾りが…
「おれ、いつのまに…」
『きにしないで、わらって』
「でも、」
『そら、あのひといっしょ』
そう言われ空を見ると雨はどこかへ消え去り、快晴が広がっていた。
「そうだな、」
それから、しばらくは2人で空を見つめ俺はナースコールを押しまた明日ここに来ると約束をしてかえった。
8月11日
今日もあの日と変わらない空を見ていたかった。
どしゃ降りの雨に混じる君の命の終わり。
どこで何を間違えたのか、俺は君の手に握られていた手紙を読んで後悔した。
外では、セミが最期の命を叫んでいた。
空を見ていた Nakaya @nakaya_soda1005
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