第5話 先輩、私と一緒に、ゲームをしませんか?
「ねッ、湊先輩、どこに行きます? 私はどこでもいいですけど」
夕方の街中。先ほど、他の部員とハンバーガー店前で別れ。今は二人っきりになったことで、右隣を歩いていた紬が話しかけてくる。
「どこでもか……紬はどこか行きたい場所とかってある?」
「色々あるけど、湊先輩の意見も聞きたいなって思って。でも、先輩が決めないなら、私が決めちゃうけど?」
「じゃあ、任せるよ」
「湊先輩は、クレーンゲームとかって知ってますよね?」
「それくらいはな」
「ですよね。では、ゲームセンターに行きませんか?」
ゲームセンターか。
この頃、遊びに行っていなかったなと思う。
気分転換にはちょうどいいのかもしれない。
「というか、どこのゲームセンターに行くの?」
「それは、ここの通りの近くにあると思うので……あれですね」
紬が指さすところを見ると、そこにゲームセンターの看板があった。
「⁉」
刹那、紬の胸の膨らみが右腕に強く接触したのだ。
その柔らかさは異常である。
紬の全裸姿とかは見たことあったが、その爆乳の具合を直接感じたことはなかった。
「……」
「どうしたんです、湊先輩?」
「い、いや、なんでもないよ……本当にね」
「そう? ……もしかして、おっぱいを感じてくれているの?」
「……しょうがないだろ。紬の方が、胸を押し当ててくるんだからさ」
「もっと感じたいのなら、くっついてあげるけど?」
「いいよ。それに、ここ、街中だろ。紬は、ただでさえ目立つんだから。あまり余計に行動しない方がいいと思うけど」
「え? なんで?」
紬はわかっていなかった。
いや、わかっているけど、湊を焦らしているに違いない。
右隣にいる紬の表情を見れば一目瞭然。
ニヤニヤとした笑みを見せているからだ。
紬からしたら、単なるスキンシップ的な行為かもしれないが、今、街中にいる湊からしたら、心が落ち着きそうもなかった。
辺りをチラッと見るだけで、紬の方をまじまじと見ている男性が多い。
やはり、爆乳というものに夢を見ている男性が沢山いるということなのだろう。
「というか、少し離れてくれないか?」
「なんで?」
「なんでって……その暑いというか」
「暑いの? 私は平気だけど?」
今は、六月の半ば頃。それなりに気温が暖かくなっている。
湊も普通にしているだけなら、そこまで暑いとは口にしない。
だがしかし、現在進行形で紬のおっぱいを右腕に押し付けられているのだ。
それが暑いと感じてしまう一番の原因なのである。
「でも、離れてもいいの?」
「あ、ああ……」
「なんか、ちょっと躊躇った感じになっているけど?」
「なってないから」
本当は爆乳を感じていたい。
けど、暑さという概念と、街中を歩いている人らの視線。さらに、この二つを同時に感じ、気まずさを覚えていた。
今はちょっとだけ、距離を取りたい。
「わかったよ。そんなに離れたいなら……」
紬は悲しそうな顔をチラッと見せる。
「でも、紬のことが嫌いとかじゃないんだ」
「だよね? じゃあ、二人っきりの時に、とかでもいい?」
「……う、うん」
一瞬、脳裏を弓弦葉の顔がよぎる。
好きな相手がいるのに、二人だけの秘密を抱えていると、気まずさがヒートアップするようだった。
「というか、ここだよ。入ろッ」
やり取りをしている間に、ゲームセンター前までたどり着いていたようだ。
二人は自動ドアから、その店内に入るのである。
「先輩は、どんなゲームが好きなんですか?」
「俺は……なんだろ。大分、ここに来ていないからな。ずっと前は、格闘ゲームとかは、一応やっていたけど」
「そうなんですか? 意外ですね」
「え?」
「見た目的に、そういうゲームやりそうな気がしないなぁって」
「いや、勝手に見た目で判断するなって。俺だって、そういうゲームくらいはするから」
「へえぇ、そうなんですね。他には何をするんですか?」
「他か……なんだろ。クレーンゲームとか?」
「そうなんですね、音ゲーとか、レースゲームはしないってこと?」
「まあ、そうかもな」
「そうなんだ」
「紬は、他のゲームもする時があるのか?」
「うん、あるよ。私はちょくちょく、ゲームセンターに行くので、大体のゲームはやってます」
「そうか……だったら、上手いのか?」
「いやあ……実はそうでもないですけど」
紬は照れるように、ツインテールの髪を触り、誤魔化すように笑っていた。
「それより、何かしましょう‼」
「そうだな」
「では……時間もないようですし」
紬はスマホ画面で時間を見、明日も学校があることを踏まえた上で発言していた。
「では、今日は、クレーンゲームでどうでしょう?」
「それでもいいよ」
「クレーンゲームはあっちのエリアのはずです。早く行こッ」
「お、ちょっと待てって」
湊は、紬に右腕を引っ張られ、転びそうになったが、何とか態勢を立て直し、彼女の後についていくことにした。
クレーンゲームエリアには、色々な景品が透明なアクリルの箱に置かれていたのだ。
アニメフィギアやお菓子、ぬいぐるみなど……。色々あった。
「湊先輩は何にします?」
「俺は……お菓子とかでもいいけど」
「普通ですね」
「え? そうかな?」
「でも、今日はそれでいいですけどね。ではやりましょうか。私からやりますね」
紬は積極的にその場所まで移動し、そのクレーンゲームにお金を入れるのだった。
「取りますからね。湊先輩は何が欲しいですか?」
「なんでもいいんだけど。お菓子であれば」
その箱の中には、数十円程度で購入できそうな駄菓子などを置かれているのだ。
先ほど、紬は百円を入れたわけだが、少なくとも五つ以上獲得できれば、元が取れそうな気がする。
失敗した場合、その百円が無駄になるということだが……。
そして――
「こ、これくらいで、勘弁してもいいかも」
――と、紬は冷や汗をかきながら、そう言っていた。
「でもさ、四つだけでもいい方だと思うよ……多分」
その四つのお菓子を手に入れるまでに、五百円ほど消費してしまったことは秘密である。湊は、そこらへんは目を瞑っておくことにした。
「では、二つずつに分けましょう。先輩の分ですから」
「ありがと」
「では、今日はもう時間がないですし。帰る? その前に、ごめんね。湊先輩のやる時間も考えずに熱中してしまって」
「別にいいよ。俺は今度やるからさ。そうだ、ここの近くにあるコンビニで、何かを買ってあげるよ。このお菓子の代わりにね」
「本当ですか?」
紬は笑顔を見せてくれる。
二人は、ゲームセンターを後にするのだった。
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