桜賀さんが好きだよ

「大丈夫?」


桜賀さんが、俺を支えてくれた。


「酔いが、まわっただけです」


「タクシー呼ばないと行けないね。公園あるかな?」


桜賀さんは、スマホで公園を探してる。


「すぐ、そこだね。ここに呼ぼうか」


公園に入って、ベンチに座る。


桜賀さんが、電話する手を止めた。


「朝陽君?」


中学ガキの頃と変わらない俺は、桜賀さんにキスをした。


あの時みたいに、舌をねじ込もうとした。


「駄目だよ」


突っぱねられた。


「夕陽が、好きだから?」


「ごめん」


「夕陽は、もうこの街にいないよ。結婚して、もうすぐ三人目が産まれる。幸せだよ。あんたいなくても」


傷つけたくないのに、傷つけてしまう。


桜賀さんの目から涙が流れてきた。


「そっか、よかった。結婚してて」


泣いてるくせに笑ってる。


「桜賀さん、俺じゃダメかな?」


気持ちをわかられたうえで、利用されたい。


「ごめん、朝陽君」


「ごめんは、言わないで。夕陽のかわりをするから。愛してなんて言わないから」


桜賀さんを抱き締めた。


「夕陽…」


桜賀さんは、そう言って俺を抱き締めた。


いいんだ。


夕陽で、いいんだ。


「暗闇なら、俺だって気づかないでしょ?」


薄暗い公園のベンチで、笑ってみせる。


「でも、朝陽君が」


「夕陽でいいよ」


「悪いよ」


そう言って、桜賀さんが目を伏せる。


俺は、桜賀さんを抱き締めた。


「夕陽は、どんな風にしてくれた?」


「お酒飲んでるから、駄目だよ」


「桜賀さんの家に連れていって」


「駄目だよ。朝陽君」


「お願い」


桜賀さんは、少し考えてから「わかった」と言ってタクシーを呼んだ。


タクシーに乗り込んで、桜賀さんの家に行く。


「引っ越したんだね」


「あそこは、思い出が大きすぎたから」


そう言って、オートロックの扉を開けた。


夕陽を忘れる為に、引っ越したのがわかる。


愛されないのをわかっていて、家についてきた。


「お酒飲む?ビールかワインかシャンパンもあるよ」


「ワイン」


「わかった。」


桜賀さんは、ワインのコルクを抜いてる。


「あの頃より、身長伸びたね」


「はい」


夕陽と同じ身長になった。


「俺は、見下ろされちゃうようになったね」


そう言って、桜賀さんはグラスを置いた。


ワインをグラスに注いでくれた。


「電気、消して」


俺の言葉に、桜賀さんは電気を消してくれた。


空気清浄機の灯りだけがある。


「これで、俺だって思わないでしょ?乾杯」


グラスをカチンと鳴らして、お酒を飲む。


「敬語やめよう」


桜賀さんは、そう言った。


もう、受け入れるつもりなんだ。


だって、夕陽はどんなに頑張っても手に入らないもんね。


桜賀さんが、ソファーに置いてる手を握る。


俺と夕陽は、似てる。


手の形違うかもしれない。


でも、声は似てるから…。


「桜賀、まだ俺を好きなの?」


夕陽みたいに言ってみた。


「夕陽、好きだよ」


そう言って、桜賀さんは手を握ってくれた。


「会いたかった?」


「うん、ずっと会いたかった」


暗いから泣いてるのバレなくてよかった。


「嬉しいよ」


俺は、桜賀さんの指に指を絡めた。


「夕陽、もうどこにも行かないで」


「行かないよ。夜になったら、また会いに来るから」


そう言って、桜賀さんを引き寄せた。


「待って、こぼれる」


桜賀さんは、ワイングラスを机に置いた。


「俺を愛して」


「朝陽君…」


「違うよ、夕陽」


「ごめんね。利用してる。20年分の思いに押し潰されそうで。利用してる」


「言わなくていいから。俺を夕陽だと思ってくれていいから」


俺は、桜賀さんを抱き締めた。


「夕陽、会いたかった。夕陽じゃなきゃダメなんだよ。こんなに愛してる人はいないよ。だから、夕陽、俺を捨てないで」


「捨てないから。だから、泣かないで」


抱き締める力を強めた。


空しい。


望んだのに、空っぽになるのを感じる。


いつまで、続けられるかな?


「夕陽」


桜賀さんも俺を抱き締めてくれる。


夕陽を消してもらえないのわかってるのに、何できたのかな…


我ながら馬鹿だな。俺



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