第18話 臍のない女神
教会に入ってすぐ目の前に広がるのは緑生い茂る畑。
薬草を栽培するためのものだと説明された。
一緒にきたサルマが瞳を輝かせている。
「ポーションに使う貴重な薬草がたくさんあるじゃないか」
「そうなんですよ。ここで栽培したものを王城にも卸していて」
「品質が高いんだな」
「ふふっ。お褒めに預かり光栄だわ」
褒められロゼもナシュも嬉しそうだ。
顔を見合わせて喜んでいる。
「ナシュ。皆様を応接室にご案内して」
「こんな姿で教会をうろついてしまっては」
サルマが申し訳なさそうに手を上げる。
「汚してしまうのが気になるのですが」
「大浴槽があるので是非そちらで湯浴みしてください」
シャンの申し出に無邪気に喜ぶサルマとロゼ。
教会の奥に通される。
十人以上が一度に入ることができそうな大きさの浴場が広がる。
「この下から湯が湧き出しているの」
「シャンの信仰のおかげです」
「ナシュは口が上手いわね」
広い浴場は手入れも行き届き白い装飾で飾られ湯が滔々と流れている。
湯浴みに着替え湯に足を浸けると緊張もほぐれた。
「あったかい」
体も温まってくると各々話に花が咲くようで。
ナシュとサルマは自身の武器の話で盛り上がっている。
二人にしかわからない用語が飛び交う。
どちらの剣も話すだけでは魅力が伝わりきらないということで。
「ユウリ。先に上がる。ナシュの大剣を見せてもらってくる」
どうも見せ合うことに決まったらしい。
「行ってらっしゃい」
一緒に行こうと誘われなくてよかった。
剣の良さは私にはさっぱりわからない。
突然浴室に現れたのは修道女の一人のよう。
「ロゼ。どの薬草を採ってきた」
今日採取してきた薬草の整理のために確認に来たらしい。
栽培に回すものとポーション制作用に仕分けなければいけないのだろう。
「すみませんお嬢様。先に失礼いたします」
「うん。教会の用事で森に来ていたのだから」
「お背中流させていただきたかった」
悔しそうに浴場を出て行くロゼの後ろ姿を見送る。
「一人になったなぁ」
しょうがないので物音が反響する広い浴場で一人で浸かる。
湯気で白い視界に石鹸の甘い香り。
湯に浮かぶ柑橘の果実。
廃れた教会とは思えない優雅な空間。
「ロゼさんから伺っていた通りだわ」
背後に人の気配がして後ろを確認しようとするが。
首筋に息がかかり柔らかい感触が背に当たる。
湯浴みの紐が解け素肌が顔を覗かせた。
「シャン院長。何を」
「敬称はなしでお願いします」
「シャン。やめてくれませんか」
笑うばかりで答えてくれない。
「服を着ていらっしゃらないのでしょうか」
「ふふっ。お風呂ですから」
「髪短くされてしまったのね」
残念だわと寂しそうな顔をしている。
「っ何してるんですか」
洗い損ねはないかしらと私の体を撫で回す。
「あら。思った通りだわ」
振り解こうとした腕を絡め取られ。
唇が重なる。
浴槽に溢れる水の音が響く。
甘い香りが鼻腔から肺に充満した。
なぜだろう体の自由が効かない。
視界が揺らめき瞼が重たくなる。
シャンは姫君のようにマディアを抱き抱え宣言する。
「臍がない。女神が地上に舞い降りた」
音もなく集まる緑青色に光る耳飾りをつけた外套の集団。
皆一様に膝をつきシャンの指示を待つ。
「時は満ちた。準備をして」
マディア・クラックは姿を消した。
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