第12話 絶望の鎖

ヴェルナー様が帰ってからやはり寂しい。中身は宏敏さんだしね。しかし前世の記憶を持っているのはあたしだけ…。ヴェルナー様からしたらあたしはアイリーンだ。


「美奈子はもうここにはいないもんねぇ…。あたしもそろそろアイリーンとして生きていかにゃね」

と決意を仕掛けた時…、


ガシャーン!!

ドタバタ


とガラスの割れる音や沢山の足音がしてあたしは何事かと思ってつい部屋のドアを開けちまったんだ!!


すると階段の端から沢山の憲兵達がやって来て…


「いたぞーー!!報告通りアイリーン・ベル・フェルゴールが潜伏していた!!」

と叫びこちらに大人数がやってきてあたしは訳のわからないうちに手首に鎖をかけられた!!


「な…なんで……」

密告者は一体…!?

と思ってるとカツカツとくつ音を響かせて憲兵達の中から見知った顔が出てきた!


「エルムート…殿下…」

そこには黒髪で金色の瞳を持つ男が冷たい目でこちらを睨みつけ


「……やっと見つけたぞ!逃げられると思っていたのか!?お前はフロングレスト修道院に追放だと言ったはずだ!


シャーリィの夢のお告げが無ければ…この場所はわからなかった!ああ!我が愛しのシャーリィはやはり神に祝福を受けたようだ!お前とは違ってな!」

と言う。密告者はどうやらシャーリィさんだった。


1階に降りるとエルヴィンさんが捕まっており憲兵達に殴られていた。


「そいつも城の地下に収容しておけ!!」

とエルムート殿下が言い放つ。


「やめとくれ!この人は関係ないじゃあないか!あたしが悪いのさ!!」


「五月蝿い!悪魔め!!」

と言い殿下にバシンと頰を叩かれた。あたしは両脇を憲兵達が固めていたので避けることも出来ずにくらった。

おまけに手には鎖。


そうして抵抗できずにあたしは外へ出されて小屋みたいな馬車に乱暴に押し込まれた。


背中を押されてその中へ入るとあたしみたいな年頃の女の子達が数人覇気のない目をしてこちらを見た。同じように手足に鎖に繋がれて身動きできないようだ。


あたしも鎖を壁の棒に巻き付けられて動けなくされた。


「悪役令嬢アイリーン・ベル・フェルゴール!お前ももう終わりだ!シャーリィの夢の中にまで出てくるなんて図々しいやつめ!」

いや、知らないよ、夢の中とか。ヒロインにそんな能力あったのかい!?


エルムート殿下の嫌な顔を残して馬車の扉が閉まる。馬車はガタンと揺れて動き出した…。フロングレスト修道院に向かい…。


はぁ……結局こうなるのかい…。鎖を見てあたしは周りの子と同じように絶望した。逃げられそうにない。

フロングレスト修道院に着いちまったら……あたしやここにいる娘達も酷い目に遭うことはわかっている。

この鎖さえなんとかできれば…。しかし硬くて冷たい鎖は頑丈であり逃げ出すことは不可能と感じた。


「どうしたら…」

と呟く。

浮かんでくるのはヴェルナー様ばかり。数日間過ごしてあたしは彼の成長を待つつもりだった。いつか絵を買って笑って過ごせれたらと短い夢を見ていたのだろうか?


悔しいねぇ…。ああ…あたしはなんて無力なんだ…。もっと上手くやれてたら…。


それともやはり運命には逆らえないってのかい?


日が暮れた頃馬車は止まり、夕食を取るらしい、夜営かい。

私を含め4人の少女達が暗い目をしてジャラジャラ飾りをひきづり馬車から下され側の木に括りつけられた。


そして御者の男には地面にわざとパンを落とされた。後は川から汲んできた水を水筒に入れられて放り投げられる。川からって…大丈夫なのかい?

何も食べない少女もいたが落ちているパンや川の水でものそのそと食べる少女もいた。あたしは仕方なくパンを拾い手で払い少しだけ齧った。


満点の星空を見上げて今頃ヴェルナー様はどうしてるだろうか?学園に戻りゲームの矯正力でもしかしてヒロインと恋に落ちているかもしれない。


「あたしゃ何のために転生したんだ…」

推しのヴェルナー様と前世の夫が夜空に浮かんだ。冷たい鎖を見てまたしても絶望感で涙が出そうだ。


明日にはフロングレスト修道院に着いちまうかもしれない!そうしたらあたしもここにいる少女達も……。

あたしは前世の記憶で一応経験があるがこの子らはどうだろうか?明らかに酷い目に遭うだろう。何とかできないかね?

鎖を引っ張るがやはりびくともしない。くっ!忌々しいね!何もできなくて悔しい。


しかしその時だった…。


「ぎゃあ!!」

ガツンと音がしたと思ったら御者台の男が焚き火の側で倒れる音がした。

何事だい!?まさか盗賊!?

と警戒する。

すると仮面を被った二人の男がこちらに歩いてきた。少女達は怯えて震えている。


「あんた達!何者だい!!盗賊かい!?」

すると仮面を外した男たち。それを見てあたしは絶句した。


アイスブルーの髪と銀の瞳のイケメン執事レビルドと…とても会いたかった顔が泣きそうになりこちらを見ている。

白い髪に蒼の瞳の美青年だ。血色は良くなっている。


「アイリーン様!!」

推し様がかけてきてくれた。あたしは胸が締め付けられ抑えていた水分が目から飛び出た。


「うぇっ!!ヴェルナー…しゃん…うっく!!、ぶええええええ!!」

ととんでもない醜い泣き方をした。

するとヴェルナー様は信じられないことにあたしをぎゅっとしてくれた。


ふごおおおおおお!!!

髪を撫でられ


「アイリーン様…ご無事で!!…僕噂を聞きつけて……レビルド様に相談して二人で馬を走らせて来ました!!本当に良かった!!」

と言ってくれるが抱きしめられてもうにやにやしかできない。

ヴェルナー様の向こうでレビルドが呆れた顔をしているがこいつがいなかったらあたしはもうダメだったかもしれないね。


「ふん…。だらしない顔ですね。元侯爵家の人間が」

と悪態をついたレビルド。付け加え


「まぁ…中身はおばあさ…」


「わーわーわーわー!!」

とバラされそうになり慌てて声を上げたらヴェルナー様が


「どうしたんです??」

と聞いてくる。レビルドの奴どうやらヴェルナー様には秘密にしてくれてるみたいだね。今言いそうになったけど。


レビルドとヴェルナー様は少女達を解放した。


「あ…りがとうございます…」

震えながらもお礼を言う少女達。


「あんた達行く当てはない…かい?」

と言うとまた暗い目でうなづく少女達。


「………じゃあたしと一緒に逃げるしかないね!ついて来たいかい?ここでのたれ死ぬなんて人生勿体無いよ?あんたら若いんだし、これから知らない街で良い人と結婚して家庭をつくんなきゃダメだよ!」

と言うと少女の一人が


「そんな…こと…」

とボソリと言う。鎖の痕が赤く腫れている。この子も逃げようとして暴れたに違いない。


レビルドは


「とりあえずここを離れましょう。馬車の馬で3頭いますからアイリーン様と俺たちとで少女達丁度運べます」


「ん?運ぶって…当てはあるのかい?レビルト…あんた」


「………ここから東の国に行きましょう。昔、迫害を受けた人々が受け入れられた国と書物に書いてあったのを覚えてます」


「ほうそんな国があるのかい?」


「ええ…本で読んだので本当にあるか怪しいですがね」


「あんたはどうするのさ?長旅になるし侯爵家は…ヴェルナーさんも」

というと二人は


「はぁ…もう俺も首でしょう。この件に加担したのですからお尋ね者でしゃう。ヴェルナーくんもその覚悟はしたおり俺に相談に来たのですから。


ヴェルナーくんからクッキーの事を聞いてね…俺も食べてなかったから…」


「クッキー?何のことだい?」

と言うとヴェルナー様は一部始終を話した。それに震える。ヒロインの奴恐ろしいことするね!!でも確かゲームじゃ確かに好感度上げのためにクッキーをチョロチョロ渡す場面があった。あれに媚薬入っとんかい!!ゲームの真実怖いね!!


「行きましょう…アイリーン様!僕はこの国を出て新しい生活を始めます!アイリーン様の助けになります!!」


「やれやれ…余計な事を聞かなければ良かったのですが…操られた人生を送るくらいなら俺も自由にさせていただきますよ!」

とレビルトも頭も掻きながら言う。あたしはうなづいて少女達に


「あんたらも折角自由になれたんだ!いつまでも暗い顔をしてないで未来を見な!!さあ行くよ!希望溢れる場所へ!!」

とあたし達は馬に乗り駆け出した。












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