第11話 恋煩い(ヴェルナー)

家に戻り数日間のことを説明するのに森で迷ったと家族には嘘をついた。

アイリーン様は僕が画家になれるよう応援してくれた。


もちろん以前からシャーリィさんも応援してくれてるけど…彼女は誰に対しても同じように振る舞っている気がした。


シャーリィさんには正直憧れのようなものを持っていたけど…アイリーン様は僕だけを応援してくれてるみたいだ。

好意も寄せられているし僕は舞い上がってるだけなのだろうか?


でも少し生活してみて…平民落ちしたアイリーン様を見ていると今までと全く違う。


絵を描かせてもらった時も…ずっと心臓がうるさかったような…?

病気はあの薬で快方に向かっていた。けどアイリーン様を見ると時々きゅうとする。でも今までみたいな倒れるような痛みではない。


「僕は本当に病気が治ったのか?」

診療所でエルヴィン先生に診てもらったが信じられないことに心臓はどうやら治っていると告げられた。

顔色も倒れていた時とは大違いで本当になんでこんなに元気になったのか首を傾げていた。


身体も軽く僕は確かにあの薬が病気を治したのだと実感した。


それから僕はともかく学園に復帰した。すると直ぐにシャーリィさんがやってきた。


「ヴェルナーさん!!大丈夫?ずっと休んでいたから私心配で夜も眠れなかったの!!」

と言うシャーリィさんだがおかしいな…肌は健康的だし艶もありとても眠れないとは思えない。


「心配してくれてありがとう…僕は大丈夫です…」

と言うと彼女は嬉しそうにスルッといきなり僕の腕を取り接近した。


「!?」


「ふふふ、これからは悩みがあったらいつでも私に頼ってね!」

と一方的に言われ…僕の頭の片隅にアイリーン様が浮かび思わずシャーリィさんを突き飛ばしていた。


「きゃあ!」


「おっと!!」

そこに彼女を受け止めたアイリーン様の元婚約者でありこの国の王太子エルムート・ディー・アスマランド殿下がこちらを睨み恍惚な表情で


「シャーリィ!大丈夫かい?おい平民!シャーリィに何をするんだ!!」


「あ、あのご…ごめんなさい!!」

僕は一礼し一目散に駆け出した。

その後そっと壁の間から覗いてみるとシャーリィさんとエルムート王太子様が周りに見せつけるように仲良く手を握り合い登校していた。


シャーリィさんもにこにこしている。

やはり彼女は誰にでもああなのだろうか?

授業中も僕はボーとしておりアイリーン様は今頃診療所で何をしているんだろう?もうすぐお昼だしランチの準備?

……ああ、アイリーン様の手作り料理は意外と美味しかった。

そんな事を考えてハッとしたら紙にアイリーン様の絵をいつの間にか描いていた!!


うわあああ!!

新しい紙に取り替え真面目に授業を受けたがやはり頭の片隅にはいつもアイリーン様が浮かんできた。


たまにシャーリィさんを見かけるが他の男の人といつも一緒で楽しそうにしていた。彼女はいつも男の人におやつのクッキーをあげているようだ。

それを食べる男の人も嬉しそうだった。僕の所にもクッキーを持ってきたことがあった。


「絵の制作の合間に食べてね!!応援してるわ!!」

とベタベタと背中を触り笑顔で帰って行く。窓から下を見るともう他の男の人にクッキーを渡していた。


僕は何故かクッキーを食べる気にならず持って帰り…犬のルッチにあげていた。するとルッチは……おかしくなった。と言うより明らかに発情期じゃ無いのに発情し僕は顔を顰めた。


「クッキーに何か入ってる……」

それからは彼女が渡してくるクッキーは捨てた。シャーリィさんは不思議そうに僕に接してくる。クッキーに媚薬みたいなものが入っていて効かないのを怪しんでるのか。


「絵は順調?コンクール近いんでしょ?」


「……はい。集中したいので悪いけど出てってくれる?」

やんわり断ると…


「……なんで?わからないわ?私応援してるのよ?嬉しくないの?」

と少し怒りながら


「ねぇ、クッキーちゃんと食べてる?」

と聞いてきた。


「はい。いつもありがとうございます」

と言うと


「……じゃあ今ここで食べてよ!!」

とクッキーを出される。まずいぞ。こんなの食べたら僕もおかしくなる!どうせ食べるならアイリーン様の手作り料理が食べたい!!


「今お腹空いてなくていつも帰ってから食べるので」


「なんでよ!今食べて!クッキー食べてるとこみたいの!」

と押してくる。痺れを切らし袋からクッキーを一枚取り出して目の前に突きつけられた!これを食べたらアイリーン様のことを忘れて彼女に夢中になってしまう!

ここ数ヶ月様子を見ていたがシャーリィさんは確実に他の男の人との仲が進展していた。


正直人気のないところで抱きしめあっていたのも見たことがある。それも日替わりで。


僕はクッキーを食べるわけには行かない!

手でクッキーを叩き


「……シャーリィさん……これに何を入れてるの?」

ビクっとしたシャーリィさん。


「な、何のことよ?何も入ってないわ?疑うの?ひ、酷い」


「うちのルッチ…犬がクッキーを食べておかしくなった…」

と言うと青ざめて


「そ、そう犬に?あんまり美味しいからじゃない??」

自分で言うのか。


「もう僕に関わらないでほしいです」

と言うと目を開き


「そんな…なんでよ!!?貴方も私を好きになるのよ!!」


「……?意味がわからないよ…」


「薬だって飲んだんでしょ?だから元気になって…」

と言う。


「飲みましたよ……アイリーン様のを…とても元気な身体になり…感謝しています」

と言うと


「は、はあ!?アイリーンですって!?なんであいつのを!?だって追放されたじゃない!!」

これ以上話しても無駄だと感じ僕は彼女を部屋から追い出し鍵を閉めた。しばらくドンドンドアを叩き何か叫んでいたが足音が遠ざかり静かになった。


「はあ…」

一枚の絵の布を取りそこに描かれた美しいアイリーン様。


「会いたい…」

でも約束したんだ。アイリーン様と。僕はアイリーン様に一番最初に絵を買ってもらうと。彼女にあげる絵は最高の一枚にしたいって。


「その為に頑張らなきゃ…」

ちゃんと学園を卒業して一人前の絵描きになるんだ!!

僕の描いた絵をアイリーン様は喜んでくれるだろうか?


『ありがとう!!ヴェルナーさん!嬉しいよ!!やっぱりあんたの絵はいいね!一生側で見ていてもいいかい?』


『アイリーンさん…それって…』

と想像しながら胸がドキドキしてきた。


ダメだ…集中しないと!絵の具を筆につけ真っ白なキャンバスに向かう。それから集中して数日かけて描いたのはやはりアイリーン様だ…。うーん、でもやはり描いても描いても違うと心が言ってる…。


「ダメだ…この絵もこの絵もダメだ!本物のアイリーン様はもっと……もっと…??」

僕はそう考えて筆を止める。もっとなんだろう?僕がアイリーン様の何を知っていると?好きだと言われ舞い上がり逃げ出して来た彼女を保護し…いろいろあり数日森で過ごした…。


楽しかった…。一緒にいると心が温かかくなる。アイリーン様を意識した。


「ああ…あああ…何と言う…ことだ!」

思わず胸を押さえた。


これは…この…病名は…【恋煩い】!


平民の僕でも恋煩いがどう言うものかは周りを見ればわかった。この学園ではそこら中そんな人が多いのだ。


「そうか…僕は…あの人に恋をしているのか…」

急に自覚して恥ずかしくなる。立派になってアイリーン様に絵をあげようと僕は筆を持つ。


そんな矢先…ある噂が学園に流れた…。


ー元侯爵令嬢アイリーン・ベル・フェルゴールが潜伏している場所が判明し今度こそフロングレスト修道院に追放になったー


と。

僕は目の前が真っ青になった。







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