クールな彼女がデレるまで

玲音

一話目。

 雨が好きだ。

 鬱屈うっくつとした灰色が降り注ぐ景色にとてもディストピアを感じる。


 紫陽花あじさいが好きだ。

 梅雨の世界に鮮やかに輝く紫陽花に堪らないノスタルジーを感じる。



 窓辺で外を眺め、思いふける。


 今日の帰りまでに雨は止むだろうか


 例え好きとは言っても、全容を肯定する訳では無い。

 濡れたら普通にウザい。

 普段なら暑いくらいの昼休みは、密閉されたこの空の下でじめじめする不快な感触をもたらしている。



雪叢ゆきむら〜」



 自分、『鬼山 雪叢(おにやま ゆきむら)』の名を呼ぶ声は、いつにも増してダルそうな雰囲気。



「なしたー」


「お前飯食わねーの?」


「今からー」



 適当な返事をしてから窓辺を離れると、自分の席にもたれかかっているリュックから昼飯を取り出す。

 今日のメニューはコンビニで買ったサンドイッチとのり弁、おまけで鶏五目のおにぎり3つ。

 我ながらよく食うと思う。



「一緒食うべ」



 そう言って、先程自分を呼んだ男の下へ寄る。

 小学校からの付き合いで、親友とも腐れ縁とも言える彼は『桂 秀(かつら しゅう)』なんて響きの良い名前がある。

 頭は良いんだけど昔から何かとバカばっかりかまして、高校1年生の今でも俺とつるんでいる。



「てかこの高校マジでエアコン効かなくねー、マジキモイんだけどー」



 お母さん特性のお弁当を取り出しながらダルそうな顔で文句ぶったれている。



「しゃーねーっちゃ、網戸にしてっし」


「雨降ってんのに、アホだわー」



 お互い田舎出身という事もあり、カラッとした暑さには慣れている。

 しかし都会特有のじめじめな暑さには抜群に弱い。

 あと自分は、特に辺境の地に住んでいた為に若干訛りがキツい。



雪叢ゆきむらまたコンビニじゃん」


「学校来っ時買えっからって便利だわーマジで」


「金大丈夫なんだか?」


「いけっぺ、バイトしったし」


「えー、すっかなぁバイト」


「とりあえず食うびゃー」


「「いただきます」」



 世間話をしながら飯を食べ進める。

 二人共半分くらい食べたところで近づいてきた人物がいた。



「ねー、マジ無えってアイツー」


「お前がアホなだけだろ」



 不貞腐ふてくされた様な顔で自分達に近付いてきたのは『佐倉 樹(さくら いつき)』、高校に入ってから仲良くなったクラスメイトの1人。

 中学でサッカーをしていたらしいが高校ではサボり部として有名な書道部に属している。


 その隣でほくそ笑んでる細身のメガネは、樹と同じ部活の『工藤 真斗(くどう まさと)』。

 アニメオタクな真斗だがスポ少でサッカーをしていた時期があり、尚且つ樹と気が合っているからかいつも一緒にいる。



「聞いてー、俺さー、宿題忘れたから佳苗かなえに見せてっつったらさー、『忘れる度見せてたら、いっちゃんがそれに甘えてずっと宿題して来なくなるでしょ』って説教されてさぁ………」



 ぶーぶー口を突き出しながら幼馴染兼彼女の『狩屋 佳苗(かりや かなえ)』の愚痴を垂れている。



「いや彼女さんの言う通りだべ」



 樹は、冷静なツッコミを返す自分に物言いたげな目を向けながら、近くの空いてる席に座った。



「ただ惚気たいだけっしょこいつ」



 真斗の言葉に自分と秀は同意するように首を縦に振った。

 いつもの4人、いつもの面子、高校に入ってからずっと絡みのあるグループ。



「いいなーお前は彼女いて。俺なんか彼女どころかすら無えよ……」



 なんとも悲しい事実を告げた真斗の言葉に繋げるように、秀は言った。



「そーいえば雪叢ゆきむら、お前紗奈さなさんとどうなの?」


「えー、今その話すんの………」



 紗奈さなさんとは、他クラスにいる『會田 紗奈(あいた さな)』。

 自分と同じ吹奏楽部なのだが、一匹狼という言葉がよく当てはまる人で、基本人といる所は見ないし、部活が終わっても独りずっと居残り練習をしている。

 明るく染めた髪に整った顔立ち、若干着崩した感じの制服スタイルだが、それがとてもよく似合っている。

 女優とかアイドルとかそんなレベルで可愛い。



 そして声を大にして言いたい事だが、自分、鬼山雪叢の彼女である。

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