(9)
俺は、帰りに大き目の本屋に寄り、森実の短篇集の中で、森嗣が言っていたデビュー作が収録されたものを見付けた。
森実が「小松左京」名義で書いていたデビュー作「地には平和を」は……あのうさん臭い「フリーライター」が言っていた内容そのままだった。
タイムマシンを使って無数の歴史を生み出し……その内の1つでも元の歴史よりマシな歴史になる事を……人類が自分達の愚行から何かを学び、よりよき未来を生み出す歴史が、せめて1つでも有れば……そう願う「狂人」と、その「狂人」を逮捕し、狂人が生み出した無数の歴史を消し去る体制側との戦い……。
そして……帰りの電車の中で、「復活の日」を途中まで読んだが……気になる展開になっていた。
作中で「チベットかぜ」「MM88」と呼ばれる生物兵器として生み出された新種のインフルエンザ。
その流行で人類は滅亡の危機に陥るが……同時に別の病気も流行をしていた。
この小説の中にはmRNAワクチンは無いらしく(まぁ、一九六〇年代が舞台なので、仕方あるまい)、鶏が伝染病で大量死してしまい、ワクチンの製造に必要な鶏卵が足りなくなる。
そして、新種のインフルエンザの流行と、ほぼ時を同じくして、謎の急性心停止も増加する。
どうなっている?
まるで……2つの病気が同時に流行し……内、片方は……感染経路が判っていない今の状況みたいだ……。
仕事が終り、行き付けのジャズ喫茶の閉店時間も迫り……。
続きは、帰りの電車の中で読み……。
まさか……。
『この本に、この世界で流行している疫病の謎を解く鍵が有る』
あの謎のメッセージの意味は……それか?
小説の序盤で軍事施設から盗み出され、飛行機事故で外に漏れてしまった「MM88」と云う細菌兵器は……作中で「チベットかぜ」と呼ばれていたインフルエンザのウイルスでと厳密な意味では同じモノでは無かった……。
だが……そんな……そんなウイルスなんて有り得るのか?
そして、あのメッセージと、この本を俺に残した者達は……どうやって、世界中の科学者が突き止めていない事実を知った?
更に……何故、俺なのだ?
俺は……かつて「ヒーロー」を演じたが……現実の俺は本物のヒーローには程遠い。
俺の推理が本当だとしても……他の誰かに、どうやって伝える?
そして、誰が、それに耳を貸す?
それを、どうやって証明する?
少なくとも、ただ1つ言える事が有る。
俺に、この本と、あのメッセージを残した者は、今、流行している2つの病気に密接な関係が有ると思っているらしい。
この小説の種明かしは……「他のウイルスや病原菌に寄生するウイルス」。
つまり……
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