(6)

 夢だったのか?

 アパートの自室で目を覚ました時に、まず、そう思った。

 服装は……昨日、記憶が途切れた時と同じ。

 だが……。

 枕元には、買った覚えが無い古い文庫本。

 タイトルは「復活の日」。作者は……小松左京? 聞き覚えの無い名だ。

 カバーの著者近影は……聞いた事も無い作家なのに見覚えが有る。

 ……少なくとも似ている……。

 「首都圏壊滅」の作者の森実に……。

 そして……文庫本の中に一枚の紙が挟まれていた。

『この本に、この世界で流行している疫病の謎を解く鍵が有る』

 何の事だ?

 一体……どうなっている?

 俺は、その文庫本を、出掛ける時に、いつも持って行く鞄の中に入れ……。

 何が起きている?

 シャワーを浴びても……頭は混乱したままだ。

 劇団の事務所に「出勤」する為に部屋を出て……。

 嘘だ……。

 冗談だろう?

 幻覚か? それとも現実か?

 そして、俺の頭がおかしくなったから、あんな幻覚を見たのか? それともあれが現実だった場合こそ、俺の頭が、おかしくなっているのか?

 俺の自転車の前面の籠。

 それは大きく歪んでいた。

 まるで……誰かが、激突する自転車を片手で止めたかのような……。

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