一休ちゃんは今日も毒舌

紅琥珀主

第1章 飴水堂編

1章 第1話 毒舌美少女一休ちゃん!登場!

雨が降っている。


地面に叩きつけるような雨ではなく、肌に張り付くような嫌な霧雨だ。


ここは妖都へとのびる妖界主要6街道のひとつ、餓鬼道。


街道沿いの木は全てなにものかに喰われた痕が刻まれ、無惨な有様であり、辺りにはただナニカの気配だけが漂い姿は見えない。


そんな道には到底似つかわしくない、小綺麗な薄桃色の着物を着た美少女と、体にドクロのような模様のある猫又が1匹。猫又は首からダンポと書かれた木札を提げている。


辺りに大きな地鳴りのような音がした。


「なあ一休、腹減ったんじゃが…。ここ3日辺りなんも食ってないぞい。そろそろお前だけ食ってないで、ワシにも飯分けてくれんかのう。今の音聞いたじゃろ、あれワシの腹の音じゃよ。」


「嫌よ。ダンポは妖怪だから何も食べなくても生きていけるでしょ。私は食わなきゃ死ぬの。それに、妖都で母さんの薬を買う為にもお金は節約しないといけないから、あんたの飯代分のお金なんて無いっていっつも言ってるわよね。そんなにお腹空いたなら、その目障りな2本のしっぽのどっちか食べたら。」


と、ダンポのしっぽを割と本気で引っこ抜く勢いで引っ張りながら一休が言う。


「いてててて、そんな事言わずに、少しは分けてくれんか。このダンポ一生に一度のお願いじゃ」


「あんたもう死んでるじゃない…。

まぁお腹がすくのもわかるんだけどね。この餓鬼道は、空腹や喉の乾きで死んだもの達の怨念が集まるから、お腹が空きやすい力場になってるしね。」


「そうなんか、知らなかったわ」


「無能爺が」


「ワシの扱い酷すぎん?」


「それはどうでもいいとして、あ、見えてきたわよ。あれが今日の宿、飴水堂。」


そう言った一休達に見えてきた宿は、お世辞にも立派とは言えなかった。屋根は半分傾き、瓦は禿げていない部分の方が少ない。今にも倒れそうだ。


「ほぅ。経営甘そうな名前通り、ボロっちい宿じゃn…グハッ」


宿から高速で何かが飛来したかと思うと、突如ダンポの身体が吹き飛び、10m程先の地面に叩きつけられた。地面には大きな亀裂が入っている。

それを見た一休は冷や汗をかきながら言う。


「なるほど、宿の悪口言ったら即制裁って訳ね。一体誰がやってるのかしら。しかも結構な威力じゃない、生身の人間なら普通に即死よ…」


そこへ起き上がったダンポが戻ってきた。


「ふぃー、死ぬかと思ったわい。」


「そこは死んどきなさいよ。」


「酷いのう。少しは老猫をいたわらんか。そんなお主にはこうじゃ!」


そう言ってダンポはドロドロの身体を一休に擦り付けた。


「最悪!服汚れちゃったじゃない!口にも入ったし、ん?なんか甘い…?」


「一休、この匂いは恐らく水飴じゃ。」


「水飴?」


「ああ、ワシが若い頃はメス猫又のシェリーちゃんにプレゼントしようとしたもんじゃ。」


「いや聞いてないし、それにメス猫又ってことは、あんたが若い時じゃないじゃない。」


「ふぉっふぉっふぉ。あの頃はわしも若かったのう…。」


「……(ダメだこのジジイ)。ほら、いつまでも汚れたままでいる訳にはいかないでしょう。早く中に入りましょう。」


そんな一休の言葉には耳を貸さず話し続けているダンポ


「それでなシェリーちゃんが…」


「…じゃあ先に中に入ってるわね。気が済んだら来て、来なくてもいいけど。」


そう言った一休を尻目に尚も1人で話し続けるダンポ


「お、シェリーちゃんが川の向こうに見えるシェリーちゃあん!ワシも行くよー。」


「全く、叩きつけられた衝撃でおかしくなったのかしら。いや、元々おかしいのだけれど。」


そうぼやきながら一休は宿の中へと吸い込まれるように入っていく。


この後、どんな大騒動が起こるのかも知らずに…






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